第6話 店主の思わく
結局俺は断ることができず、レアさんのお屋敷で暮らすことになった。
そして、レアさんと一緒に「何でも屋」を始めてから一週間が経過したが、お客は一向に現れない。
一週間前、俺達は彼女の所有する「お屋敷とは別の建物」を使い、店を始めていた。お屋敷には劣るが、この建物もかなり大きい。
そもそも何でも屋(便利屋、万屋とも言う)とは、その名の通り依頼された事を何でもこなす店のことなのだが、はたして俺にそんな能力があるのだろうか。
レアさんは神様だし何でも出来るかもしれないけど、それでは意味がない。
依頼人の為に全力で働き、その人に存在を認識してもらう。
それを目的として店を始めたのだから、俺が主体的に動かなければいけないのだ。
「誰も来ないね」
「はい、正直ひまです」
「買い物にでも行こうか」
「店は良いんですか?」
「どうせ誰も来ないよ」
悲しい現実に泣きたくなったが、レアさんの言う通りどうせ誰も来ないので、俺達は商店街へ買い出しに出かけた。
◆
商店街には様々なお店がある。
本屋、病院、美容室、精肉店、魚店、八百屋など、俺が元いた世界と変わらぬラインナップだ。
当然その中には俺が万引きを行っていた店もある。
店主が俺のことを知っている訳でもないが、その店の前を通った時、気不味い気持ちで一杯になった。
罪悪感というやつだろうか。
もうしないので許して下さい。
そう心の中で唱えながら歩き続ける。
「今夜は魚の料理を作ろう!」
レアの一言により、二人は魚店に立ち寄った。
「すげぇ!」
思わず声を漏らして瞠若してしまう。
その店には虹色の魚が売られていたのだ。
元の世界にもこういう魚はいるらしいが、実物を見たのは初めてだ。
興味津々な尚弥を見て、レアは店主に声をかけた。
「値札が出ていないようだけど、この魚はいくらするんだい?」
「これはな、20カリスだ」
「20カリス!? 高すぎるよ」
この世界におけるお金の価値を理解していない俺にとって、二人の会話はちんぷんかんぷんだ。
「最近は魚が捕れねぇから仕方ないんだよ」
店主がポリポリ頭をかきながら言い訳すると、レアさんはため息をついて2枚の銀貨を取り出した。
「毎度ありっ!」
店主はそう言うと、銀貨を受け取り箱の中に入れた。
ニコニコしている店主の隙をつくように、レアさんは質問する。
「何で値札を出していないんだい?」
「あ、あー、これはな、最初から値札を出してると、高すぎて客が寄ってこないんだよ。値札のない商品を見て、客はいくらだろうと思い話しかけてくる、さっきのあんたみたいにな。そこからは俺の巧みな話術で魚を買わせるのさ」
「巧みな話術ねぇ......」
「もっと言えば客に同情してもらったら勝ちな訳だ」
自慢気に語っているが、客に対してここまで手の内を明かして良いものだろうか。
とりあえず現在の漁業の事情、店主の思わくなどが知れたところで、俺達は店を後にした。
その帰りのことだった。
「やっ、やめて!」
路地裏から女の子の怯えた様な悲鳴が聞こえてきたのは。