第4話 善行と存在
レアさんは俺を見て笑いだした。
驚いている俺が面白いのだろう。
「そんなところに突っ立ってないで、早く中に入ろ!」
そう彼女に促され、俺はお屋敷に足を踏み入れた。
「うわぁ......」
やはりお屋敷の中も俺が想像していた通り、高級感の溢れる内装だった。
壁には大きな人物画がたくさん飾ってあり、入ってすぐのところには無駄に長いテーブルが置かれている。
上を見るとシャンデリアまで付いていた。
Theセレブの家って感じ。
奥の方に階段があり、俺はそこを登らされた。
2階には10室の部屋があり、そのうちの1室に案内される。
「うわぁ......」
さっきまでとはまるで別世界だ。その部屋の中は非常に狭く、物が散乱している。
「ここが私が普段生活している場所だよ」
レアさんにそう言われて、正気を疑ってしまった。
こんな汚い部屋でよく生活できるものだ。
「さぁ君! えっと、何だっけ、名前?」
「尚弥です」
「ナオヤ君! 右腕を見せてごらん」
「嫌です」
この世界に来た時から、俺の右腕には入れ墨のようなものが入っていた。
文字が書かれているようだけど、何と読むのかわからない。
兎に角、俺は入れ墨とかそういうのが好きでは無いから、それを人に見せるのは恥ずかしいと思い躊躇ったのだ。
「じゃあ見るね」
レアさんは抵抗する俺の腕を押さえつけ、無理矢理服の裾を捲り上げた。
強引すぎる......
「ふむふむ」
レアさんは俺の右腕に書かれているものを1分間じっくり眺めていた。
「わかったぞ!」
そう言って手をポンッと叩いたレアさんは、自慢気に俺の置かれている状況を説明し始める。
「君は今私以外の生物から存在を認識されていないんだね。ちなみに私が君のことを認識できているのは、私に全てを見通す目があるからなんだ。この目は神々しか持つことの許されない特別なものなんだよ」
「なるほど」
「君は自分の存在を皆に認識してもらいたいかい?」
そんな当たり前のことを聞いてくるなんて。
この2ヵ月で誰からも相手にされない辛さは充分実感している。
「もちろんです」
それを聞くと、レアさんは安心した様な笑顔になった。
「なら君は、天命を全うしなければいけない」
天命?
何だそれ。
俺にそんなものがあるというのか。
「君の天命は《善行と存在》、まぁつまり、誰かの為に全力を尽くすことだ!」
レアさんが何を言っているのかよくわからないけど、やっと俺の「異世界の楽しい冒険」が始まったような、そんな気がする。