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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ミュルクの森の奇跡

作者: 星降 香音






 昔々、ミュルクという森に魔女と呼ばれる黄金色の瞳を持つ少女が住んでいました。

 でも少女は魔女ではありませんでした。魔法が上手に使えない、身寄りのない女の子なのです。お母さんが魔女だったので勘違いされているだけでした。



 ある日、ミュルクの森で迷った騎士の少年が少女の家にたどり着きました。


 コン、コン、コン。


「すみません、どなたかいらっしゃいませんか?」


 すると扉が開いて帽子付きのケープを被った少女が出てきます。


「はーい、あの……どちら様ですか?」


 茜色の髪の少年はあ、と言って騎章を見せました。


「えと、僕は王国騎士のレンニ。実は森で迷ってしまったんだ……。」

「お、王国騎士の方…………しょ、少々お待ちください。」


 少女は恐れるように家に入り、バタバタと走り回ります。そして少しだけ扉を開くと筒と紙を差し出しました。


「……お待たせしました。こ、こっちが水筒で、これは地図です。……どうぞお帰りください。」

「え、あ……。」


 バタン。

 レンニの目の前で少女の家の扉は閉まりました。


「お礼、言いそびれちゃったな……。水筒も返さないといけないし……。また来るか……。」



 次の日、レンニはまた少女の家にやって来ました。


 コン、コン、コン。


「こんにちはー。」

「はーい。」


 少女が扉を開くと立って居たのは昨日の騎士でした。


「あ、貴方は昨日の…………な、何かご用ですか?も、もしかしてまた迷いましたか?」

「いや、昨日の水筒を返しにきたんだ。あと手書きの地図をありがとう。すごく助かった。」


 レンニは微笑みます。少女は恐るおそる訊ねました。


「あ、あの……貴方は私が怖くないんですか?それとも……噂を知らないんですか?」

「今日は質問ばかりだね。昨日はすぐに扉を閉ざしてしまったのに。」

「す、すみません。」

「いや、責めているわけではないんだ。君が怖くないのかだったね。噂は知らないが、怖くはないよ。だって君はただの女の子に見える。もし、魔女だった「っすいません、お引き取りください。」」


 バタン。


「……なにか、気に障るようなこと言ったかな?」


 レンニが家に帰り、ミュルクの森に入ったことを家族が知ると血相を変えてこう言いました。


「あの森には、魔女が居るんだ。もう二度と入るな。」

「そうよ、それにまだ教会は開いているわ。今すぐ禊の儀式をしてもらわなくちゃ。」

「…………うん……。」



 それでも、レンニは少女のことが気になって、今度はお菓子を持って少女の家に行きました。


 コン、コン、コン。

 ギギギー。


「ま、また、貴方ですか?もう噂は知っているでしょう?お引き取りください。」

「そんなこと言わないでくれ。昨日は、不躾に魔女だなんて言葉にしてすまなかった。お詫びにお菓子を持ってきたんだ。」


 レンニはお菓子を見せました。


「お菓子!?…………すみません、取り乱しました。それで何をして欲しいんですか?」

「は?」

「え?だって魔女って知ってお菓子を持ってきたんでしょう?」


 本当に少女は魔法の対価としてレンニがお菓子を持ってきたと思って居るようです。


「いや、お詫びだって言っただろ?と言うか本当に君は魔女なの?」

「私は…………。もし、私が魔女だったら……貴方は……どうしますか?罵りますか?」

「……何を言ってるんだ?そんなことするわけが無いだろ?だって君は迷っている僕を助けてくれたじゃないか。昨日だって迷ったか訊いてくれたし、そんな優しい女の子を僕が罵る訳がないだろ。」

「……ふぇっく、ふぇっ……ふぇぇん。」


 少女は突然声をあげて泣き出します。


「ど、どうしたんだ?な、泣かないでくれよ。」

「だっ……だってぇ……ふぇ……女の子って…………久しぶり……に……ふぇっく…………。」

「わ、分かったから。頼むから泣き止んでくれ。」


 少女は泣き止むと、事情を説明しました。


「私は、魔女じゃないんです。…………く、熊に襲われて亡くなったお母さんが魔女で、でも私は上手く魔法が使えなくて……。だけど王都の人達は私のことを魔女だと思ってるんです。」

「そうか…………。君の名前を教えてくれるか?」

「り、リコです。レンニさん…………私の話を信じてくれますか?」


 レンニは、リコが名前を覚えているとは思っていませんでしたがしっかりと頷きます。


「ああ。でも、じゃあなんでさっき何をして欲しいのか訊いたんだ?」

「私に出来ることなら…………なんでも叶えて差し上げようと思いまして…………。」

「…………女の子なんだから、そんなこと言っちゃだめだぞ。」

「……ありがとうございます。」


 レンニは首を傾げます。


「その、私を"女の子"扱いしてくれましたし、優しいって言ってくださったでしょう?それに私の話を最後まできいてくれたので。」

「そんなこと、当たり前だろ?」

「でも、その当たり前を今まで誰もしてくれなかったんです。だから、当たり前に"女の子"扱いしてくれてありがとうございます。」


 レンニは一瞬考え込んでしまいました。


「…………どういたしまして。あ、今日はもう帰らないといけないんだ。…………あのさ、また来てもいいかな?」

「はい、もちろんです。また、来てください。」


 そうして時々レンニはリコに会いに行くようになりました。



 ところがある日、王様からレンニ達、王国騎士にミュルクの森の魔女を捕まえて、王都の人達の前に3日晒して4日目に殺すようにという命令がくだされました。

 レンニは、慌ててリコの元に向かいます。


 ドンッドンッといつもより手荒にノックしてリコに声を掛けました。


「リコ!リコ!」

「レンニ?扉が壊れてしまいます。」

「あ、ごめん。ってそうじゃなくて、今すぐ逃げろ!」

「逃げろって何があったんですか?」

「ミュルクの森の魔女を殺せっていう王命が下されたんだ。このままだとリコが危ない。」

「そう。そういえば王太子が戴冠したんでしたね……。」


 リコはどこか他人事のように呟きます。


「そう、って!」

「私が逃げる場所なんてありません。」

「隣の国は、魔女や魔女の血縁でも差別されることはないそうだ。だからリコ今すぐ荷物を纏めて逃げろ。僕が、俺が王国騎士共の足止めしてやる。」

「私に隣の国まで逃げろって言うんですか?この家と…………レンニを置いて、一人で?私が逃げるのを手伝えばレンニがどんな目に遇うか分からないんですよ?」

「そんなこと言ったって誰かが足止めしなくちゃリコの足だとすぐに追いつかれるだろ!」


 リコは微笑む。


「それに、私なら大丈夫です。」

「大丈夫なわけ無いだろ!」

「そういえばレンニに見せたことがないですね。いつもフードを被っているのを不思議に思いませんでしたか?」


 そうリコは言いながらフードをとりました。するとそこには()()の髪がきれいに纏めてられていました。


「…………その、色はっ……!」

「"王族に()()出ない紫紺の髪"です。まぁ、王族と血の繋がっている公爵家などにも稀に生まれるそうですが。」

「リコ様は、王族だったのですか?」


 リコは急にレンニの態度が変わって驚きました。


「様も敬語も止めてください。私は産まれた時から王族ではありません。現国王には、姉がいたのはご存知ですか?」

「ああ。病弱で16歳の時に病で亡くなったアウロラ殿下だろ?」

「ええ。そのアウロラ殿下が病弱というのは表舞台に立たない為の嘘です。」

「…………まさか、アウロラ殿下は魔女だったのか?」


 リコは微笑を浮かべます。


「と言うことはリコは国王陛下の姪?」

「そういうことになりますね。先王陛下が王都に近いこの森に魔女が居るという噂を耳にしても兵を差し向けなかったのはこの家が先王陛下から下賜された家だからです。」

「だが、先王陛下が急にご逝去されたから国王陛下に伝わって居なかったと言うことか?」

「おそらく…………そう、なのでしょうね。だから、レンニはここに来たことを気付かれる前に逃げて下さい。」


 リコが再びフードを被るのと同時にたくさんの足音が聞こえてきました。


「居たぞ!魔女だ!それから男が1人、帯剣している!」

「逃げてっ。」

「駄目だ、リコを1人には出来ない。」

「魔女を捕らえろ!男はどうなってもいい!総員掛かれ!」


 レンニが剣を抜き兵士の剣を捌いていきます。


「ちっ!もっと大勢で囲め!王国に仇なす不届き者を切り伏せろ!」

「レンニ!!」


 レンニが防ぐよりも多くの攻撃を受けあっという間にレンニはボロボロになってしまいました。それでもレンニは剣を振り続けます。


「レンニ!レンニっ!大丈夫、私がどうにかする。だから、もうそれ以上剣を振らないで。」

「大丈夫って、泣きながら言うなよ、なっと。」


 レンニは、次々と兵士を倒していきます。そして最後の1人になりました。


「ま、まさか、レンニって…………練習試合とはいえ騎士団長を倒したレンニ・フォン・レオーナじゃ……。」

「…………ふっ。さて、どうかな?」

「や、やめろ!」

「俺のリコに手ぇ出しといて許されると思うなよ!」


 最後の1人を薙ぎ倒し、レンニはよろめき、リコの家に寄りかかってズルズルと座り込み目を閉じます。


「ごめん…………リコ…………俺……駄目…………かも……しれない…………。」

「レンニっ!お願い、お願いだから死なないで!」

「…………リコ………………大……好き…………だよ…………。」

「駄目、レンニ!っ………………よし。」


 リコは、昔お母さんがお父さんに使っていた、回復魔法を唱えてみることにしました。


<偉大なる大精霊よ。天を司りし神々よ。我を護りし英雄に、どうか癒しを与えたまえ。ヒール!>


 でも、何も起こりません。


「なんで?お母さんと同じように唱えたのに…………。」


 リコはもう一度唱えてみます。


<偉大なる大精霊よ。天を司りし神々よ。我を護りし英雄に、どうか癒しを与えたまえ。ヒール!>

「もう一度!」

<偉大なる大精霊よ。天を司りし神々よ。我を護りし英雄に、どうか癒しを与えたまえ。ヒール!>

「もう一回!」

<偉大なる大精霊よ。天を司りし神々よ。我を護りし英雄に、どうか癒しを与えたまえ。ヒール!>

「もっと!」

<偉大なる大精霊よ。天を司りし神々よ。我を護りし英雄に、どうか癒しを与えたまえ。ヒール!>

「お願い…………!」

<偉大なる大精霊よ。天を司りし神々よ。我を護りし英雄に、どうか癒しを与えたまえ。ヒール!>


 もう、無理かもとリコは思いましたが最後にもう一度回復魔法を唱えてみました。


「…………お母さん凄い魔女なんでしょ?お願い……手伝って!」

<<偉大なる大精霊よ。天を司りし神々よ。我を護りし英雄に、どうか癒しを与えたまえ。ヒール!>>


 すると、リコの前に光のたまが浮かび、その光がレンニの傷をみるみる塞ぎ呼吸を安定させました。そしてレンニはそっと目を開きました。


「あれ?リコ……そっか俺死んだのか………………。」

「レンニ、死んでないよ。私も、レンニも。」

「だってあんなにボロボロだったのにもう痛くない。」

「ふふっ、お母さんが助けてくれたんだよ。たくさん詠唱したのに一回も出来なくて駄目かと思ったんだけどお母さんに手伝ってってお祈りしたら回復魔法、成功したんだから。」


 レンニは目を見開きました。


「…………本当に、俺は死んでないのか?」

「本当に、死んでないよ。私の最初で最後の魔法をレンニが受けたんだから。」

「そっか。」

「うん。それから耳を貸して?」

「耳?」

「いいから、早く。」

「ん。」


 レンニがリコに耳を寄せるとリコはそっと囁きました。

 するとレンニは、顔を赤く染めました。なぜなら、リコが囁いた言葉は""―――私もレンニのこと大好き。""だったからです。



 それから、追加で来た王国騎士と騎士団長にリコの髪色を見せていろいろ……本当に色々あったあと、レンニとリコは森の家で幸せに暮らしましたとさ。







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― 新着の感想 ―
[一言] どうなるのかなぁと思いながら拝読。 やっぱりハッピーエンドは良いですね!
2023/07/31 22:39 退会済み
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