夏の終わり
今年の夏はどこへ行ってしまったのだろう。
夜の生暖かい空気は嫌いじゃないのに。
季節に置いてかれたことにさえ気づいていなかったわたしは生地の薄いティーシャツが、もう季節外れなんだということに今更気づいた。
シーズンを終えた海は、ただ淋しく波の音だけが繰り返される。
「その時がきたらわたしも死のう」と決心はしていたけれど、こんなにも呆気なくその時が来るとは。
「ねえママ。今年は海へ行けないの?」
「んー...莉奈がもう少し元気になったら、先生にお願いしてみようね」
「うん! ママは海好き?泳ぐの上手?」
「そうね。莉奈と海に行くのは大好きよ。」
今年が娘にとって最後の夏だと神様からのお告げがあったのなら、あのとき無理にでも莉奈と海へ行ったのに。
―莉奈。ママはね泳ぐのが苦手なの。だから今から海を通って莉奈のところに行くからね。
あしに触れる波の感触が普段と何も変わらないせいか、今はとても心地が良かった。
「もしかして俺、今先越されてる状態?まじか... あなた、この海じゃないとダメなんですか?」
突然浴びせられた言葉に理解が追いつかないまま、唯一繋がっていた神経の糸が切れてしまったようだ。