83回目 強行偵察 6
翌日。
補給を受けてタクヤ達は再び出撃していく。
新たな偵察範囲を指示され、探知用の機材の設置場所なども示される。
やる事に変わりはなく、ただ行く先が少しだけ違うだけ。
敵やモンスターとの遭遇を危惧する日々が再開される。
「そんじゃ行くぞ」
部下に声をかけ、出発する。
車輌やバギー、バイクに乗り込んだ部隊が動き出す。
動きは軽快だが、乗り込んだ者達には緊張感が漂う。
さすがに拠点周辺は安全だが、暫く進めば危険地帯になる。
そこに踏み込まねばならないのだから、どうしても神経がはりつめる。
生存本能によるものなので、こればかりはどうしようもない。
そんな仲間に挟まれる形でタクヤもバギーを走らせていく。
(また増えたのかな)
拠点の中を突っ切りながら周りを見る。
帰ってきた時には確かめる余裕もなかったが、様々なものが増えている。
宿舎などもそうだが、レーダーに長距離砲なども目に付く。
また、通信用であろうアンテナも増設されてる気がした。
それらに電源を供給する発電装置も。
基地としての機能を着実に増大させていってるのが分かる。
それだけ敵の存在が脅威なのだろう。
既に企業部隊の駐留地という規模ではおさまらなくなっている。
(軍も出てきてるし)
企業部隊とは別に自治体の部隊も散見される。
それが企業の営利活動ではなく、新地道の存亡に関わる事なのだという事を示している。
軍と呼ばれる新地道の戦闘部隊が出動するのは珍しくはない。
大規模な開拓などで、大型のモンスターを駆除する為に派遣される事があるからだ。
その為、軍の姿を目にする事は、地球にある本土に比べれば多い。
だが、それは事態の大きさを示してもいる。
企業や民間の武装部隊だけで対処出来るならば、軍がやってくる事は無いのだから。
今回の件、企業での対応範囲を超えてるという事になる。
(本腰を入れてきたか……)
それもそうだろうとは思う。
今回の作業は単なる開拓作業というわけではないのだから。
強行偵察で戦ってみて分かる。
相手はモンスターよりも巨大な脅威であると。
モンスターならば、群れる以上の規模になって襲ってくる事は無い。
だいたいにおいて数十体くらいの集団で行動をしてくる。
それらは一つの家族なのだろうと考えられている。
血のつながりのある者同士で群を作ってる。
この群が複数連なって行動するという事は無い。
皆無とは言わないが、そういった事例はほとんど見られない。
その為、どうしても小規模な集団と個別に戦闘する事になる。
群れと群れでの連携行動がない分、対処が幾らか楽ではある。
しかし、機械集団はそうではない。
無数と言って良いほどの数の機械が襲いかかってくる。
作戦とは言えないような稚拙な動きを見せるが、その数は脅威だ。
また、個別に動いたり、小さな集団が連携を取らず動くというわけではない。
全体が一つの意志に統率されてるような動きを見せる。
戦術的な動きが無くてもそれは脅威だった。
また、数が多いという事は下手な奇策をとる必要がない。
圧倒的な数があるならば、ひたすらそれを繰り出せば良い。
それが出来るだけの数は既に確認されている。
そのほとんどは施設建造などに従事してるようではあるが。
衛星写真などを見せられたタクヤなどは、それらが自分達に向かって来ないよう願うほどだ。
もしそんな事をされたら、確実に壊滅する。
強行偵察で遭遇する敵からして、タクヤ達の数を上回る事がほとんどなのだ。
そんな敵を相手にどうにか撃退を続けているが、それもいつまで続くか分からない。
自治体の軍派遣は、それを考えるとありがたい。
企業部隊以上の戦力を持つのが軍だ。
それらが展開すれば、敵の撃退もそれほど難しくはない。
(そうなんだよなあ……)
難しくはない、というに留まるのが問題ではあった。
確実に数を増してる敵にどこまで対抗出来るのか。
実際に敵に遭遇してるタクヤ達からすれば、この先どうなるかの不安があった。
この調子で敵が増加していったら、そのうち対処出来なくなるだろうと。
(そうなる前にどうにかしたいけど)
ではどうすれば良いのか、という事までは分からない。
妙案があれば良いが、そんなものはない。
あったとしても、タクヤの立場では実行にうつす事も出来ない。
せいぜい提案をするくらいである。
それが実現する可能性はほとんど無いだろう。
一応、意見の提示窓口はある。
だが、様々な意見の一つ一つが採り上げられる事などほとんどない。
大規模な組織であればなおさらだ。
一々要望を聞いていたら、意志決定そのものが出来なくなる。
そもそもとして、提案しても数多い意見の中に埋没されるのが関の山だ。
一応、言うだけ言うにしても、それがもたらす効果は気休め程度のものでしかない。
あとは、意志決定をする上層部が適切な行動をとるよう願うだけである。
出発する前のほんの一瞬、タクヤはそんな事を考えていた。