79回目 強行偵察 2
「撤収するぞ」
敵を全滅させたところでタクヤはその場から離れる事にした。
長居してても良い事は無い。
余裕があるうちに撤退して、次に備える方が大事だ。
勝ったとはいえ、銃弾も砲弾も消費している。
こんな状態で新たな敵と戦闘をするなんて事は避けたかった。
「司令部に連絡を。
発見した敵は全滅。
これから帰還すると」
「了解」
通信担当者がそう言って連絡を入れていく。
そうしている間にも、タクヤ達は移動を開始する。
可能な限り位置を変えて、敵に気取られないようにせねばならない。
なんだかんだで軽装なタクヤ達は、攻撃を受ければ弱い。
接近される前に倒せればいいが、そうでなければ、一瞬にして壊滅する。
それを避けるためには、相手に位置を特定されないようにせねばならない。
位置を固定していたら、そこ目がけて敵が殺到する。
そうなってしまえば、先ほどのように敵を凌ぐ事は難しくなる。
タクヤ達の有利な点は、相手より射程距離が長い事。
これにより敵を射程外から攻撃出来る。
しかし、それも相手の数が一定規模以下だった場合に限られる。
敵は確かに歩兵銃の銃弾で倒す事が出来る。
しかし、人間のように一発で行動不能に陥るわけではない。
中枢部分に当たればともかく、そうでなければ問題無く動く事が出来る。
耐久力は人間などより高い。
そんな敵に対して、個人が持ちうる火力だけで倒せる敵には限りがある。
また、移動速度も人間を大きく上回る。
気を抜いてるとすぐ目の前までやってくる程に。
倒しきれなかった敵は、確実に距離を詰めてくる。
射程による有利はすぐに無くなる。
そんな敵に居場所を知られる事ほど不利な事は無い。
居座ってる所に敵が大挙して押し寄せてきたら、確実に負ける。
敵も馬鹿ではない。
敵を発見したり、遭遇した場所にはそれなりの規模の集団を送り込んでくる。
その数が増していったら、いずれは押し切られてしまう。
そうならない為にも、同じ場所に居続けるわけにはいかない。
戦い続ければ弾薬も減っていく。
これも重要な問題だった。
タクヤ達が有利に戦えてるのは、武器があるからだ。
それが無ければ簡単に蹂躙されている。
個体の戦闘力だけ比べてみれば、明らかに機械の方が上なのだ。
人間は素手で金属の体を破壊する力を持ってるわけではない。
射程20メートル以上の遠距離攻撃方法も持ってない。
射程1メートルにも及ぶ熱噴射も出来ない。
浮遊して移動する事も出来ない。
移動速度においても、簡単に負けてしまう。
それを覆してるのは武器があるからだ。
そして、銃弾や砲弾があるからだ。
これらを使い尽くしてしまったら、対抗する手段がなくなる。
こういった理由があるため、戦闘が終わったら可能な限りその場から移動する事が求められる。
また、攻撃を仕掛けるにしても、相手の規模を見極めておく必要があった。
不用意に攻撃をしてしまえば返り討ちにあう可能性があるからだ。
そうした事例も皆無ではない。
幸い、今回の戦闘は上手くいった。
敵はタクヤ達で対処出来る程度の数だった。
攻撃も上手くいった。
矢継ぎ早に攻撃を繰り出し、敵に余裕を与える事は無かった。
しかし、毎回これほど上手くいくとは限らない。
次は失敗するかもしれない。
今回だって、危うい場面があったかもしれない。
その恐怖は常につきまとう。
だからこそ、これで大丈夫だと安心するわけにはいかなかった。
打てる手は全て使い、安全の確保と敵の殲滅を両立せねばならない。
「通信手」
「はい?」
「本部に連絡。
弾を補充したいって」
「了解」
バギーを走らせながら、通信機に向かって指示を出す。
それもまた、戦闘で勝ち、次も生き残る為の手段だった。
可能な限り万全の状態を保ち、何があっても対処出来るようにせねばならない。
今は弾薬を消費してるので、補充は必要不可欠である。
この状態で襲われたら、適切な対処が取れない可能性がある。
先ほどと同じ程度の規模ならばどうにかなるが、それでも不安はある。
可能な限り最善の状態を保っておきたかった。
現在行ってる作業を遂行する為にも。
そう考えてるところで無線で呼びかけられる。
「班長」
通信手だ。
「補給は交代が到着するまで待てとの事です。
それが終わったら、後方まで下がって補給を受けろと」
「分かった」
そう言いながらも顔をしかめる。
言いたい事は分かるが、それまでは弾薬を減らした状態でいつづけねばならない。
この場から勝手に退いたら、監視の目がそれだけ減ってしまう。
そういう状態を作りたくないのだろう。
交代を待てというのはそれが理由だからだろう。
(分かるけどさあ……)
それでも怖いものは怖い。
待ってる間に敵が襲ってきたら面倒な事になる。
それが機械集団であってもモンスターであっても同じだ。
遭遇すれば戦闘せざるえないし、そうなれば弾薬を更に消費してしまう。
残弾の残りが減れば、生き残る事も難しくなる。
(頼むから、何も出て来るなよ)
そう願わずにはいられなかった。
周囲に仲間がいないような状況なので、余計に不安は大きい。
つくづく面倒な作業を任されたものだと思った。