78回目 強行偵察
「来ます」
ドローンを飛ばしていた者の声が通信機から届く。
その声に立橋タクヤは反応する。
「全員、戦闘準備。
とんずらの用意も忘れるな」
その言葉が通信機を通じて言い渡されるよりも早く、配下の班員達は動いていた。
歩兵銃を持ってる者達は、敵がやってくる方向に銃を向けている。
擲弾筒や軽迫撃砲を持ってる者は、それらの射撃準備に入る。
車輌の運転手達は即座に動き出せるよう、運転席で待機している。
通信担当者は敵発見の報告を後方の司令部に伝える。
必要な事を全員が即座に実行していた。
ドローンで撮影されてる敵の数は多い。
最も良く見るホバー移動の小型機械が100機ほど。
数の上ではタクヤ達を圧倒している。
それらがまっすぐにタクヤ達の方向に向かってくる。
敵の進行方向に陣取ってるのだから当然だが。
そんなタクヤ達は臆すことなく敵の到来を待っている。
全員、落ち着いて敵の到来を待っている。
外交使節への攻撃以来、敵と認定された機械の集団。
トンネルの向こう側からやってきたそれらとの戦闘は既に開始されている。
敵は最初に人類と遭遇した地点を目指して前進してきている。
そこが彼等の当面の目標地点なのであろう。
そして、そこを起点にして人類の存在を探索するつもりなのかもしれない。
実際に機械集団が何を考えて行動してるのかは分からない。
しかし、もし彼等に人類並みの思考能力があるならば、そう考えていっても不思議ではない。
彼等にとって唯一の手がかりはそれだけなのだから。
そんな敵の行動を見越して、この異世界に展開する人類も対応している。
行動が定まってる敵の動きは単調で読みやすい。
侵攻してくる移動地点のあちこちに待機して迎撃をしていく。
あるいは、側面をついた奇襲を仕掛ける。
単純だが効果はかなり上がっていた。
特に行動を変更する事もなく、敵は同じ行動を繰り返しているのだから。
今回も例外ではなかった。
数は多いが、ひとまとまりになって移動する敵は、いつもと同じ経路を辿っている。
おかげでタクヤ達は有利な攻撃地点を選んで待ち構える事が出来ていた。
それは衝突が始まってからずっと続いている。
「見えたな」
木々の間に敵の姿が見える。
生い茂る木々の合間を縫うように機械の敵が見えてくる。
木々を切り倒して敵自身が作った道だ。
移動を阻害する要素を少しでも減らそうとしたのだろう。
だが、おかげで進路がタクヤ達に筒抜けになってしまっている。
そんな敵の側面をタクヤ達は見る形になっている。
見ようによっては面長な人間の顔のようにも見える胴体。
あるいは、女性の体のようにも見えるそれは、いつも通りにいつもの道を進んでいる。
スカートのように拡がった下部から空気を噴射して浮遊しながら。
見慣れつつあるその姿を視界と射程にとらえ、攻撃を開始する。
「撃て」
ヒロキの号令に従い、各自が攻撃を開始していく。
擲弾筒や軽迫撃砲を持つ者達は敵の後方を。
銃器を持つ者達は正面にいる者達を。
標的になった敵は、反撃を開始するより先に撃破されていく。
歩兵銃と機関銃の銃弾は、機械の体を簡単に貫通していく。
金属製といえども装甲と言えるほどの厚みや強度はない。
そんな敵の正面を、7ミリ口径の銃弾はあっさりと貫いていった。
銃弾のほとんどは重要な部分からは外れる。
そこまでの射撃能力を持つ者はそれほど多くはない。
しかし、小刻みな連射で数発が放たれるとなると話は違う。
ある程度大雑把に狙ってもまとめて何発か放てば、そのうちの一発は重要部分を破壊する。
それを狙って銃を持つ者達は連射を仕掛けていく。
射撃に自信のある者は狙って一発ずつ仕留めていくが。
そうでない者達は、自分の腕に見合った攻撃方法で敵を倒していった。
擲弾筒や軽迫撃砲を持つ者達の攻撃は、もう少し大雑把になる。
ある程度の範囲を巻き込むこれらの砲弾は、極端な精密射撃を必要としない。
敵が密集してるあたりを狙って砲弾を放てば良い。
あとは着弾地点を中心とした地点に爆風が起こる。
それに巻き込まれて敵は行動不能となっていく。
直撃をすればそれこそ一撃で壊滅する。
例え外れても、爆風の範囲にいれば飛び散る破片によって底面を破壊される。
それによりホバーによる浮遊が出来なくなった敵はただの的でしかない。
あとは一発ずつ中枢を撃ち抜けばそれで終わる。
敵も黙ってるわけではない。
攻撃を受けてない敵はタクヤ達のいる方向へと向かってくる。
最初の段階で大幅に数を減らしはしたが、それでもまだ70機ほどは残っている。
それらが一斉にタクヤ達へと向かってくる。
ただ、それでもタクヤ達の優位はゆるがない。
相手の持ってる武器の射程があまりに短く、タクヤ達まで届かないからだ。
相手の武装は主に二つ。
巨大なバーナー、溶接機のようなものによる近距離攻撃。
それと、熱で溶けた金属塊による射撃。
これらの射程は短い。
バーナーによる熱噴射はせいぜい1メートル余り。
金属塊の射撃は20メートルから30メートルといったところ。
銃器や擲弾筒などに比べれば大きく劣る。
射程に入ったら危険であるが、接近しなければさほど問題ではない。
相手の有効射程に入る前に倒してしまえば良いだけである。
とはいえ、相手の移動速度はある程度脅威だ。
人間の足では簡単に追いつかれるくらいには早い。
車輌で移動すれば振り切る事も出来るが、動き出す機会を逸したら危うい。
相手はまがりなりにも浮遊している。
地形による影響はほとんど受けない。
木々などの障害物はともかく、地面の凹凸などは問題にもならない。
そこが車輌で移動をしているヒロキ達と大きく違う。
ここだけはさすがに気をつけねばならなかった。
それでも遠距離から攻撃というのは絶対的な優位性がある。
反撃の為に接近してきた敵は、有効射程にタクヤ達をおさめる前に激減していく。
接近されるのは危険だが、それが有利になる点もある。
近寄ればそれだけ狙いが付けやすくなる。
また、まっすぐ接近してくるので狙いも付けやすい。
射的のような感覚でタクヤ達は敵を倒していく。
車載されてる12.7ミリ機関銃も含め、迫って来る敵はあっさりと破壊されていく。
100機ほど存在していた敵は、タクヤ達の50メートル前まで進んで来た所で全滅した。
ようやく続きが書けたよ。
長かった……。
誤字脱字報告、もらった分は適用済み。