77回目 間章/ここまでの経緯 6
観測衛星によって確認された、別世界からの来訪者。
それは別大陸のトンネルからやってきた。
新地道はこれへの対処を否応なしに考える事になっていく。
放っておいても、いずれは接触するのだ。
ある程度方針を決める必要はあった。
最悪の場合を考えねばならなかった。
相手が友好的であるなら良い。
だが、敵対してきたらどうするか?
その場合は戦闘に突入する事になるだろう。
そうなってほしくはないが、なった場合も考えねばならない。
結論としては、なるべく早く防衛出来る状態を作る事が決定されていく事となる。
最悪の場合に備えるとは、そういう事である。
他の結論などあるわけがなかった。
その為にも、相手のいる所まで出向く必要があった。
それも出来るだけ早く。
相手がこちらに堅固な拠点を作る前に。
相手の勢力がこちらで対処出来なくなるほど巨大になる前に。
その為にやらねばならない事は多大であった。
まず、相手のいる場所。
これが遠く離れてる。
間に大陸を一つ挟むほどに。
海を越えていかねば届かない場所に相手はいる。
仕方なく新地道は、間の大陸を足がかりにして相手のいる大陸に向かう事になった。
途中の大陸に港を造り、燃料や食料などの補給が出来るように改造する。
同時に、大陸そのもの開発も進めていく。
単なる足がかりだけではなく、ついでに資源の確保と精錬なども行えるように。
どのみち、将来は開拓の為に上陸する事にはなっていたはずの場所だ。
それが早まっただけと考えて、間の大陸の開拓や開発も始まっていく。
そうする事で、資源を輸送する為の手間を省く狙いもあった。
そして間の大陸がある程度開発され、補給場所としてとりあえず機能するようになった頃。
本来の目的地である大陸に向けて移動する事になった。
先遣隊が入り、上陸地点に拠点を造り、更に奥地へと向かっていく。
その頃には来訪者は、相手が出て来たトンネル周辺に施設を建造し、更に周辺に拡大をしていた。
その速度を高めながら。
下手に放置していると、取り返しが付かないほどの規模になるだろう。
それを懸念して、出来るだけ早く接触しようとした。
出来るだけ相手近くに出向き、その場に迎撃拠点を作るためでもある。
もし戦闘になった場合にも、出来るだけ上陸地点から離れた場所で戦闘をするのが望ましかった。
上陸地点を襲撃されたら、補給なども滞るのだから。
そんな努力をしてる間に、日本政府も動いていく。
異世界・別世界の者達との接触、言ってしまえば外交は政府が受け持つ事である。
だからこそ、政府も彼等との接触に赴くのは当然である。
だが、特段何もしてこなかった、それどころか事あるごとに新地道と対立していた政府である。
新地道側は邪魔もしないが協力も一切しないという態度でいた。
それどころか、邪魔になるなら排除しようという意志すらもっていた。
このため、外交使節が来訪者のいる大陸まで向かうのに相当な苦労をする事になる。
それも、様々な施設や設備を作ってきた新地道の苦労に比べれば微々たるものであったが。
だが、とにもかくにも外交使節は最前線まで出向き、来訪者と接触をはかった。
この接触は、不幸な結果に終わる。
外交使節の呼びかけに、相手は攻撃を持って返答をした。
焼けただれた金属片を投げかけられ、バーナーのように放射される炎をあてられて。
これにより外交使節は壊滅した。
そして、外交使節の監視を理由についてきていた新地道の者達は、来訪者への攻撃を行った。
明確に攻撃を仕掛けてきた相手である。
遠慮など何一つ無かった。
こうして異世界の者との最初の接触は、問答無用の攻撃という結果に終わった。
新地道は相手は対話の出来ない存在として、戦闘を決意。
前線となる大陸での防衛体制の強化を打ち出していく。
必要な戦力の移動だけではなく、現地の開発の推進も含めての事である。
まだ人が住むための設備すらろくに揃ってない状態なので、開拓や開発も必要であった。
そんな状態で来訪者と接触せざるえなかった。
ろくに準備をととのえる事も出来なかったのだ。
出だしとしては最悪と言うしかなかった。
ただ、全ての物事が万全の体制で行えるわけではない。
常に何かが足りない、準備が不十分な状態で行わざるえない事が多い。
今回も、そうしたよくある通例の一つと言えるのかもしれなかった。
どのみち、既に最初の接触に失敗はしている。
これが何らかの誤解による不幸な事故であれば良い。
だが、それを確かめる術すらない。
相手との意思疎通の方法すら分かってないのだから。
だからこそ、悲惨な出会い方になってしまったのかもしれないが。
しかし、いきなり攻撃してくるような者達と上手くやっていく事も出来ないだろう。
そもそもの意思の疎通すらはかろうとしないのだから。
そんな存在は、モンスターと何ら変わる事は無い。
そう、新地道の者達にとって、来訪者は姿形は違えども本質的にモンスターと大差ない存在に見えた。
ただ、来訪者は人間や動物、モンスターと違ってはいた。
人間などと同じ、言うならば生身の存在ではない。
肉体というか、生物的な身体構造はしていない。
その体は金属で出来ていた。
機械のような体は、言ってしまえばロボットに近いものがあった。
もちろん人型をしてるわけではなく、人が内部に入っているわけでもない。
完全に機械だけで構成されていた。
無人で自動的・自律的に動くロボットなのかもしれない。
正体はいまだ判明はしていない。
しかし、機械仕掛けの来訪者は、決して良き隣人ではありえない。
それだけははっきりとした事実として示されていた。
この機械の来訪者との衝突が始まろうとしていた。