76回目 間章/ここまでの経緯 5
遠く離れた異世界。
そんな新地道であるだけに、日本本国の意向を無視する事も多くなる。
その理由の多くは、現地の事情と本土の意向の衝突によるものである。
モンスター駆除の為の武装などもその一つである。
現場と上層部の意識の差とも言える。
これが余りのも大きいので、新地道側では日本本土を頼みとしない傾向が強まっていった。
事実上、新地道自治体は現地政府のようになっていく。
世代を経て現地生まれの者達が多くなるにつれてこの傾向は強まっていった。
それもあって、新地道自治体は独自に行動を始めてもいった。
特に生活圏防衛のための武装化においては、政府や官公庁のお達しを無視する事がほとんどだった。
企業や個人の武装だけではなく、新地道自治体そのものも武装はしていった。
警察とは別に、独自の軍と呼べるようなものを。
企業や個人が個人で身を守るのとは別に、自治体は自治体でより大きく広範囲に道民を守らねばならない。
それには一定以上の規模の戦闘集団が必要だった。
また、巨大な戦闘集団を確保するためには、相応の権力や財力などの力も必要だった。
それは、異世界に進出した巨大企業であっても出来ない事である。
企業はあくまで自社の権益を守る範囲でしか戦闘集団を持たない。
また、それ以上に強力な集団を抱える事が出来る程の余裕は無い。
他の業務に差し障る。
どうしても、それ以上の存在がどうにかするしかなかった。
最初は企業の武装部隊と同程度の装備から始まった。
歩兵銃と移動用の車輌やトラックから。
それらに機関銃や擲弾筒、無反動砲が加わり。
更に装甲戦闘車両が追加され。
飛行機やヘリコプターも導入された。
更に戦車や戦闘機、艦船すらも加わる事になる。
電子機器や通信機器なども軍隊に近い水準で揃えられていく。
これらを運用するための人員育成に、自衛隊退職者などを招いてあてもした。
実際にモンスター相手に戦闘する事もあり、練度も経験もかなりの水準になっていく。
また、増大していく人口に合わせて規模も拡大し、その軍備は万人単位になっていく。
これは人口の増大に合わせて拡大していく勢力圏に合わせるためでもあった。
資源の採掘地などが遠く離れれば離れるほど、分散して配置しなければならない兵力は増える。
戦力としての効果を出すためにも、一定以上の規模は必要だ。
このため、新地道の戦力はどうしてもある程度巨大化するしかなかった。
他にも理由がある。
新地道に限らず日本本土の者達が抱える懸念である。
異世界に存在する大穴の存在。
その向こうにいる者達への警戒だ。
もしそこから別世界の来訪者がやってきたら。
それらが自分達に敵対したら。
その場合に対抗出来る手段が無かったらどうするのか。
抱いて当然の懸念や疑問への答えとして、武装が必要だったというのもある。
だからこそ、戦車や戦闘機に艦船という、モンスター相手にしてはいささか過剰な戦力の保有にまで踏み切ったのだ。
単純にモンスター相手ならば、ここまで強力な兵器は必要がない。
少なくとも、現時点で確認されてるモンスターが相手ならば、不要と言っても良いほどの戦力である。
ただ、この武装についてはさすがに本土からの反発が強かった。
そこまでする必要があるのか、というものである。
新地道からすれば最悪の事態に備えるために致し方ない措置であるのだが。
だが、現地の事情に疎くなってしまう本土の者達は疑念を抱いてしまう。
それらが日本からの独立、反乱のきっかけになるのではと。
新地道と日本本土の間に出来てしまった溝や亀裂を考えれば、あながち間違いとは言えない考えである。
実際、新地道は日本本土から切り離されてもやっていける。
それくらいには自給自足が出来るようになってる。
逆に日本本土は、新地道からの資源がないとやっていけない可能性がある。
諸外国に資源を頼り切る事の危険性もある。
そうしないとやっていけないのが日本であったが、それだけに他国の顔色をうかがわねばならない事もある。
そうした懸念から解放されるための異世界であり新地道であったのだが。
今はその新地道が懸念材料になってしまっていた。
もし新地道が資源の供給を停止したら。
それだけで日本の産業は停止する。
そうなったら全てが終わってしまう。
日本の生活は全て日本以外の場所からとる事が出来る資源に頼ってる。
その供給が止まれば、日本が現在保ってる文明は崩壊する。
そうなったら、生活水準などは江戸時代まで戻る事になるだろう。
それだけは絶対に避けねばならなかった。
そんな日本にとって、新地道の武装強化は悪夢であった。
反発や反抗をしても、最悪の場合武力鎮圧する事が出来ればどうにかなる。
だが、それすらも出来なくなってしまったらどうなるのか。
その時日本は、時間をかけて消滅する事になりかねない。
それを恐れる日本政府や官公庁は、新地道の武装を非難していった。
当たり前だが新地道からすれば言いがかりでしかない。
そもそもとして、新地道の武装は効果的な防衛を担ってくれなかった本土のせいである。
モンスターの脅威を取り除くために、どうしても戦力が必要だった。
だが、日本本土はそれをしなかった。
仕方なく新地道の者達は、自分達で武装して身を守る事になったのだ。
それを棚上げして武装を非難する本土に、新地道は嫌悪感を抱いていった。
同時にこうした態度が、政府や官公庁をはじめとした本土への見切りをつけさせもした。
こいつらは頼りにならない、あてにならないと。
自分達でどうにかするしかないのだと。
否応なしに自立をせねばならなくなった。
そんな状態で、懸念する来訪者が訪れた。