74回目 間章/ここまでの経緯 3
異世界に存在した、他にもある大穴。
そこからやってくるかもしれない、別の異世界からの来訪者。
それらと遭遇したらどういう関係になるのか?
そんな懸念が発生していく。
しかし、悩んでいても問題は解決しない。
ある程度の対応策を考えはするが、出来るのはそこまでである。
また、将来の問題への対応も必要であったが、それ以上に目先の問題の解決も必要であった。
無限と言って良いほどに拡がる異世界である。
そこで生きていく為の拠点を作っていかねばならない。
当初は資源の確保が主な目的であったが、事ここに至って更に大きな目的も出来上がっていく。
手に入れる事が出来た巨大な空間に、生きていく為の場所を作り上げる事。
それが本格的な目的になっていった。
トンネル開口部に作られた新開市を中心に、資源採掘地や開墾された農地などに作られた居住地。
それらの他に、純粋に人が住み着く為の町が建設されていく。
人口の過密から解放された事で、誰もが自分の住居を持つ事も出来る可能性が出てきた。
それもあって、異世界への移住は更に拍車をかける事になっていく。
更なる事業の拡大を狙う企業にとっても、これはありがたい動きであった。
とにかく人手が慢性的に不足している開拓事業である。
やりたい事の数に、必要な人員数が追いついてない。
後に第一大陸と呼ばれる、地球側へのトンネル開口部の存在する大陸ですら巨大なのだ。
ユーラシア大陸と同等の大きさを持つこの大陸に、存在する人口はわずか数十万人。
そんな人数では出来る事は限られてしまう。
何をするにしても、一人でも多くの人員が必要だった。
その為に企業は、かなりの高額で人員募集をかける事になる。
それは底辺でくすぶってるフリーターのような存在を呼び集める事になる。
また、より高給を求める者達の転職をも促していった。
意図した事ではないが、ブラック企業と呼ばれる形態が淘汰されていく事にも繋がった。
あくまで一時的なものではあったが、この時期の新人の給与で月額30万円以上は当たり前だった。
全てがそうだったとはさすがに言わないが、この水準が珍しい事ではなかった。
仕事に従事してそれなりの経験と能力を身につけた者には更なる昇給もあった。
それだけの金を支払ってでも人を確保しようとしていたのだ。
当時は高齢化・少子化、新生児の減少が続いていた事で、若年層が少ない事も影響していた。
減少する一方だった労働力を少しでも確保しようと、どの企業も必死だった。
何より大きな理由は、異世界の危険性による。
モンスターの存在の為に、異世界における業務には危険が伴う。
また、企業が求めていたのは、そうしたモンスターが蔓延る町の外での戦闘業務が主だった。
何もない所に必要な施設を建造。
その為の建材や、採掘された物資の運搬。
そういった作業の護衛。
果ては未開地の調査など。
どうしても危険がつきまとう作業に従事する人間が圧倒的に不足していた。
これらの業務に従事する者達を集める為の高額な給与でもあった。
比較的安全な場所での勤務(工場や事務所などでの内勤など)は、さすがにここまでの高水準とはいかなかった。
それでも、一般的な作業員や事務員でも、勤続三年を超えれば月額30万円近くの給与は当たり前ではあった。
役職手当や技能手当がついた場合の給与は更に上がる。
それが可能な程の好景気であった。
異世界に進出してから10年から20年が経過する頃にはこういった状況になっていた。
資源の採掘地は次々に発見され、それらが常に開発されていく。
それらを加工する精錬所や工場も次々に出来上がっていく。
更には、現地で製品化する工場も出来上がっていった。
それらは稼働開始からずっと休むことなく動き続けていた。
そうでもしないと作業が終わらないのだ。
そして次の作業すぐにやってくる。
一つの作業、一つの業務はいずれ終わりが来る。
しかし、更に別の作業や業務が新たにやってくる。
仕事が終わる事はあっても、途切れる事は無かった。
これらが新地道の武装化を後押ししていく事になる。
進出当初は無かった工業力が集まってきた事で、現地での武器製造が簡単に行われるようになった。
これにより狩猟用の猟銃程度が大半だった異世界の武装は一気に強化されていく。
兵士が保有する歩兵銃などを始めとして、装甲車両なども民間における配備が進んでいった。
自衛隊以外に納入先がない兵器産業からすれば、新たな市場が出来た事にもなる。
また、どうしても制限があった国内における武器の実験なども可能となる。
利用者が拡大する事によるフィードバックも増大した。
異世界はこうした産業にとっても貴重な実験場の役割を果たす事にもなる。
おかげで自衛隊が保有する兵器の質が上がっていくというおまけもついた。
特に顕著な武装化が進んだのが、警備関連の企業や、企業内の部署だった。
モンスターの排除をせねばならないこれらにとって、高度な武装化は必要不可欠であった。
その為、装弾数が多く、連射も可能な歩兵銃はそれだけでも戦闘力を上げる。
接近するモンスターを凌ぐ為にも、装甲車は必要になる。
撃退する能力を上げ、生存性を上げ、損害を減らす。
その為にも、より強力な武装は必要だった。
また、ヘリコプターや軽飛行機を改造した航空戦力も増大していく。
空からの警戒と攻撃はモンスターにも有効だった。
それに、空を飛ぶモンスターに対抗するためにも、こうした戦力も必要だった。
それが機銃を追加しただけの簡易な武装であったとしてもだ。
これにより空からの脅威が激減していった事もあり、有用性も確認された。
さすがに軍隊ほど強力ではないが、民間の警備の範囲を逸脱するほどの武装は成されていった。
だが、そうでもしないと対応出来ないのが異世界のモンスターでもあった。
小さなものでも大型犬ほどの大きさのあるモンスターである。
それが数十という群れを成して襲ってくるのだ。
一発一発再装填しながら銃を撃っていたのでは間に合わない。
どうしても連発できるだけの銃が必要だった。
また、それより大きめのものになると、全長10メートルほどの巨体を持つようになる。
それは後ろ脚で直立したトカゲのような姿をしている。
地球では化石でしか残ってない肉食型の恐竜に似てもいた。
それらにも、一発二発の銃弾では効果が薄い。
急所に数発は銃弾を撃ち込まないと倒す事は出来なかった。
最低でも歩兵銃が求められたのには、これらが跳梁跋扈しているからである。
銃だけではない。
襲いかかってくるのを見越して地雷の設置などもなされていった。
少しでもモンスターを撃退する為に必要な措置である。
常に護衛を確保出来るわけでもないので、こうした物が街道沿いに設置されもした。
設置すれば人を配置する必要がなくなるこうした兵器は、新地道においては実に便利な道具として広まる事になる。
更には、神話や伝承、お伽噺にしか登場しなかったような存在もいる。
全長20メートルを超えるドラゴン。
全長30メートルを超える巨大な四足獣ベヒーモス。
翼を拡げれば20メートルを超える巨鳥。
これらは銃器だけでは対処不可能なほどに強力な存在であった。
ドラゴンの鱗は鋼鉄並の硬さがあり、その厚みは数ミリはある。
猟銃や歩兵銃の銃弾でも貫通は出来るが、巨体故か相当な弾丸を撃ち込まないと撃退出来ない。
ベヒーモスの場合は、巨体とそれを保つ強健な肉体が脅威であった。
銃弾を弾くほどではないが、表皮あたりで銃弾をとめてしまうほどの硬い肉体を持っている。
巨鳥に至っては、大空を飛んでるので地上からの攻撃が届かない場合があった。
これらに対抗する為に、より強力な12.7ミリ機関銃や、擲弾筒、無反動砲などが用いられていく。
ドラゴンの硬い鱗も、ベヒーモスの強靱な肉体も、さすがにこれらにはかなわなかった。
歩兵銃よりも強力な12.7ミリ機関銃ならば、巨大なモンスターにも効果があった。
また、擲弾筒や無反動砲の砲弾はこれらの肉体を大きく抉っていく。
肉体を削られ、大量の出血を強いられていけば、いかに巨大なモンスターと言えども堪えることは出来なかった。
空を飛ぶ巨鳥には、武装された軽飛行機などが対応していく。
飛行能力において軽飛行機には劣るこれらは、発見され次第次々に撃墜されていった。
明確に存在するこうした脅威への抵抗と対抗。
その為に新地道は武装せざる得なくなっていった。
それは個人が兵士並に武装するだけに留まらない。
ドラゴンなどの巨大なモンスターもいる事で、戦闘用車輌の保有すら考えざるえなくなるほどである。
いわゆる装甲戦闘車両、機関砲を搭載可能な戦力もモンスターの撃退には必要だった。
特に射程の長い機関砲は、対空用の装備としても効果が大きい。
巨鳥対策として対空レーダーも合わせて備えた車輌が幾つか導入されもしていった。
これらの武装が、日本本国からすれば危険に見えてしまうのもやむをえない事ではある。
とはいえ、新地道からすれば、これは必要不可欠である。
ないと現状の維持すら困難になるのだから。
かくて日本本国と新地道の間での対立が始まる事にもなってしまった。
それに対しては新地道選出の議員や、新地道の出身者で固められるようになった新地道自治体が最前線に立つ事になっていく。
この後書きを書いてる時点までにもらった誤字脱字報告は適用済み