73回目 間章/ここまでの経緯 2
モンスターを撃退出来るようになってから、新地道の開拓は進むようになる。
異世界側のトンネル開口部周辺に居住地を造り、そこを起点にして周囲にひろがっていく。
もちろん、資源の採掘と確保が目的ではある。
その為の地質調査の為に、まずは周辺探索が始まっていった。
同時に、異世界で確認されたモンスターが地球にやってこないよう対策もたてられる。
トンネル開口部を囲むように壁が建造され、更に撃退用の機銃座や砲台も作られていく。
この建設も含めて、初期の異世界開拓は相当な出費になっていく。
だが、これも必要な経費ではあった。
やらねば日本本国が危険にさらされる事になってしまう。
この業務も含め、数多くの人が必要になった。
企業は異世界での作業員を求めていく。
数多くの人間が異世界に出向く事になった。
何万人という数が一気に移動する事になった。
当然、これらを相手にする産業もついていく事になる。
身近な生活を支えるサービス業もまた一斉に動いた。
こういった者達によって、異世界における最初の町が形成されていく。
新たな都道府県として新地道が誕生した。
また、その中心地として、新開市が発生した。
この時、特例措置として異世界の新地道におけるいくつかの特例措置が出された。
優遇措置がこれにあたる。
特例措置と言えるかもしれない。
開拓の負担を少しでも減らす為である。
少しでも人手が必要であり、また活動する個人や団体の制限を減らす為である。
様々な法規制がゆるめられ、認可が必要な物事も承認が簡単に出されるようになった。
さすがに安全性や環境に関わる部分は一定の水準を保ちはしたが。
そうでない分野においては、かなりの緩和がなされていった。
銃の所持規制なども、変更はされなかったが、見なかったことにするという状態になっていく。
更に税負担も含めて様々な面で新地道が有利になっていく。
これにより企業を始めとした様々な活動が異世界で活発になっていく。
何せ税すらも緩和されたのだ。
法人税は言うに及ばず、個人の所得税などすらも大幅に下がる事になった。
企業は手元に残った分を更なる投資に回す事が出来るようになった。
使わない分は当然ながら内部留保、いわゆる貯金にする事になる。
それもそれで、企業の体力をつける事になる。
不況が襲ってきても、自力でしのぐ事が出来るようになっていく。
もっとも、トンネル登場後の地球はかなりの進出・建設ラッシュで、かなりのバブル経済状態になっていた。
旺盛な経済活動が起こってる状態で、不況は当面心配しなくてよかったが。
また、企業などの団体・集団もそうであるが、個人の手元にも残る分が増えていった。
税負担が減った分だけ、金が残るのだから当然である。
それがまた消費に周り、貯金に回る。
消費は単純に様々な者達の売り上げに繋がっていく。
貯金は何か会った場合に急場を凌ぐ為にも使われる。
また、より大きな買い物にも使われる。
それを預かる銀行などは、これを元にして様々な所に出資が出来るようになる。
新地道の経済は様々な面で金が動きやすくなっていった。
この優遇や特例は、以後延々と続く事になる。
有利な条件を簡単に手放すほど新地道も馬鹿ではない。
それに、開拓や開発は延々と続くのだ。
何せ地球を越えるほど巨大な世界での活動である。
全土に日本の手が、新地道の勢力が拡がるまでを期限とするならば、そう簡単には終わらない。
何より、モンスターという脅威は消えて無くなったわけではない。
常に武装が必要な環境での活動なのだから、地球にある日本本土と同じ条件ではたまらない。
優遇や特例が出てるとはいえ、ではモンスターからの防衛や脅威の排除までしてくれるわけではない。
政府の手が足りないというのもあるが、基本的にモンスターは自力で排除するしか無いのだ。
そんな状況で本土より有利な条件を取り下げられてはたまらなかった。
こういった環境で異世界の新地道は勢力をのばす事になっていく。
資源が埋まってる場所も発見されるようになり、それらに採掘のための人間が送り込まれるようになる。
当然、そこに至る道も建設され、必要な中継地も建設されていった。
襲ってくるモンスターを撃退するための護衛も不可欠で、その分がどうしても大きな負担にはなってしまう。
だが、外国ではない自国領内からの採掘という利点のため、誰もが資源の確保に向かっていった。
政府間の交渉などがいらないというのは大きかった。
モンスターの脅威はあるが、それ以外の手間が省けるのはありがたい。
余計な交渉や審査や認可を待つ事なく事業を展開していける。
それが異世界の開発を推し進める事になっていった。
採掘だけではない。
原料を精製・加工する産業も異世界に進出している。
それらが原料をある程度の形にして、日本に送り込んでいく。
その第一陣が到着した日が、日本が資源を自国領内で確保出来るようになった記念日となる。
同時に広大な土地を利用した農業も始まっていく。
人口を支えるための食糧確保も必要不可欠な産業だ。
幸い、土地はありあまっている。
治水工事や灌漑などは必要であるが、場所の確保に困る事は無い。
日本本土ではあり得なかった大規模農場が次々に誕生していくきっかけにもなった。
これらがある程度進んだ頃、異世界の探索も新たな段階に入っていく。
建設された宇宙ロケット発射場から観測用の衛星が打ち上げられていく。
これによって異世界の全貌を把握する事が出来るようになった。
新たな異世界の大きさと地形が分かったのはこの時である。
トンネル開口部の存在する大陸の大きさが、ユーラシア並である事。
同じくらいの大きさの大陸が他にもある事。
それらは日本に大きな可能性をもたらした。
少なくとも住む所はまだまだ充分にある。
拡大は幾らでも続けていける。
地球上の土地を求めて争う必要は無いと。
だが、同時に懸念事項も発見された。
異世界に存在する大穴────トンネルは一つだけではなかった。
惑星である事が分かった異世界には、いくつかの大穴が存在した。
それはある程度予想されてた事ではあった。
地球にも複数の大穴があるのだ。
異世界にも、当然ながら大穴が幾つか存在するのではないかと。
懸念と共に考えられていた事である。
実際それがあった事で、抱いていた懸念の現実化を誰もが危惧するようになった。
同じように異世界からこの世界にやってくるかもしれない存在の事を。
それらが自分達と対立したらどうするのかと。