69回目 日本本国の動き 3
こういった感情的な、その原因となった過去の出来事が新地道の態度を決定づけていた。
起こった出来事を無くす事は出来ない。
また、過去の出来事を水に流してしまったら、対応を間違える事になる。
相手が何をしてきたのかを見れば、どういう行動に出るか分かる。
それは今後も延々と変わることなく続いていく。
だからこそ新地道は政府への協力を拒否する姿勢をとっていった。
とはいえ、それでも利用出来るものは利用したいのも事実。
本国の自衛隊を前面に押し出せるなら、それはそれで利点にはなりえる。
今まで新地道にしてきた事を無かった事にし、自分達は好き勝手してるのは癪に障るが。
それでも新地道ではまかない切れない巨大な戦力が前方に展開するのはありがたい。
だからこそ新地道は、邪魔も協力もしない事にした。
行きたいというならば、その為の労力は自分達でまかなえ。
途中で襲ってくるモンスターは自分達で対処しろ。
相手の所まで行きたいなら、その道は自分で切り開け。
────概ねこれが新地道の意見であった。
この態度に政府は激怒した。
組織の関係を考えれば当然であろう。
だが、これまでの経緯がある。
新地道からすれば、政府の言うがままにしてたら損害を被るとしか思えない。
防げる、避けられる問題をそのまま被れという政府の意志など聞いてられるわけがない。
そんな事をいう連中に協力する言われなどあるわけもなかった。
また、国民の大多数が新地道のこの姿勢に賛同してもいた。
新地道で起こった経緯などについては、インターネットを始めとして様々な媒体で伝えられている。
それこそ新地道は金を使ってマスコミをも動かして現地の出来事を報道した。
これにより事実を知った国民は、政府の対応のあまりの酷さに愕然とした。
現地に存在するモンスターがどれだけ脅威なのかも伝えられ、同情は最高潮に達した。
何より、異世界が資源調達のために欠かせない場所であるのが大きい。
そこで活動する者達の存在は、日本の産業、そして一人一人の生活を支えるために欠かせないものとなっている。
どれ程産業が発展してようとも、資源のない日本にとってこれらの産出地の存在は大きい。
無くなれば、すぐにでも日本は潰えるのだから。
異世界で働く者達の事を思いやるのは当然の流れではあった。
感情を抜きにしても、現地の者達がいたずらに死傷していけば、それだけ日本本国に悪影響を与える。
労働力の低下や、開発の遅滞・停滞に繋がるのだから。
にも関わらず、それらを手助けするどころか足を引っ張る政府の動きを、国民の多くが非難した。
このため、本国からの外交使節派遣で、政府は相当な負担をする事となった。
交渉担当者とその護衛、道中に必要な様々な物資の確保。
これらを政府自らが行わねばならなくなった。
そしてこれがとてつもなく難航する事になる。
何せ新地道の者達が一切協力しないのだ。
現地の業者は政府関係者に何一つ売りはしない。
その為、必要な物資は全て本国から運び込む事になる。
食料や燃料すらもだ。
現地で産出されるものを調達すれば、移送費などはかからないで済む。
なのだがそれが出来ない。
このため、不要な出費が発生していった。
おまけに、現在日本本国で使われてる物資の出産地には新地道のものがそれなりにある。
それをまた持ち込まねばならない場合もあり、無駄な手間がかかってしまっている。
むろん、その為に出費は全て本国政府持ちである。
運送だって協力する者はいない。
人や物の移動にしても、それを運ぶための車輌や船舶が必要になる。
だが、これも現地の業者などは悉く拒否をした。
やむなく政府はこれらも自力で調達する羽目になる。
だが、これが難題だった。
車輌はまだよい。
地続きの日本から持ってこれる。
しかし、船舶はそうはいかない。
さすがにトンネルの中を、外洋航行可能な船を運ぶ事は出来なかった。
ならば飛行機を使えば、となるのだろうが、これがそうもいかない。
異世界においては航空機の運行がほとんど発展してない。
これが必要なほどの長距離移動が無い事が大きい。
飛行機そのものは用いられてるが、それは空からのモンスターへの警戒などが一番の目的となっている。
このため、大型の飛行場などもほとんど存在していない。
軽飛行機が発着出来る程度の小さなもので充分だからだ。
当然ながら、大陸間の航空便も存在しない。
移動時間の短縮化を考えると意義があるのだが、採算が取れるほどの利用者が見込めないからだ。
そもそもとして、大陸間を飛行可能な大型飛行機を運用できる空港を作る余裕がない。
このため、飛行機による移動は諦めるしかない。
こういった事情もあるため、海を渡る手段としては船が一般的だった。
その船を調達出来ない事が問題だった。
やむなく政府は、数少ない海上自衛隊基地から船を出す事となった。
もとより道中の護衛を考えると、護衛が必要ではあった。
そのため、海上自衛隊の出動は考えられてはいた。
しかし、外交使節などを搭乗させるのは民間船を考えていたので、これもまた予定外の事ではあった。
なお、当然ながら新地道は海を渡る間の護衛も拒否した。
「襲われても反撃するなといってた連中が何をほざく」
というのが、護衛を求めた政府に返した新地道の答えである。
なお、この言葉は意訳でも何でもなく、実際に新地道から日本政府に返された言葉だ。




