68回目 日本本国の動き 2
本国の動きに対して新地道は、可能な限りの引き延ばしをはかった。
相手との接触が出来るほど接近してるわけではないこと。
そこに行き着くために、中継地点を設置しなくてはならない事。
その為には多大な時間と労力が必要であり、簡単にはできない事。
これらが理由であった。
実際、本国政府への根強い不信感が無かったとしても、これらを解決しない限り接触は不可能である。
何より一番の問題は、モンスターにある。
相手と接触するには未開地に分け入るしかない。
そうなれば、当然モンスターとの衝突も発生する。
そうなった場合、自衛や正当防衛をどうするのか、という問題が出てくる。
さんざん自衛や正当防衛すらも遮ってきたのが政府である。
行政機関である。
それらが別世界からやってきた者達と接触を図ろうとしている。
当然、途中の道中におけるモンスターとの遭遇は避けられない。
それをいったいどうするというのか?
法律はいまだに改正すらされてない。
武装への規制や自衛・正当防衛の基準はそのままだ。
この状態ではろくな抵抗も出来ない。
モンスターに遭遇したら一方的に殺されるだけである。
この問題をどうやって片付けるのか。
それが問題になっていく。
これに対して政府が出した答えは、制度に問題は無いという事だった。
武装も自衛なども全て今まで通りの基準で問題無いという回答である。
よって、現行の法律・制度でもって目的地まで向かうという事になった。
これに対して新地道側は呆れた。
それでいったいどうやって途中のモンスターを凌ぐのかと疑問を抱いた。
だが、そういうつもりならば、あとは勝手にしろという事に落ち着いた。
本国政府と行政機関などがそうしたいというなら止めるつもりはなかった。
現地まで頑張って辿り着いてくれと言って、手を振って「いってらっしゃい」と言うだけである。
だが政府は、新地道自治体に協力を要請。
目的地到着のために中継地の利用と護衛などの応援を求めた。
これに新地道は激怒した。
「ふざけるな!」
ほぼ例外なくこれが新地道の者達の意見となる。
相手のいる場所まで出向くのにどれだけの努力が必要になるのか。
中継地点の設置にしろ、その維持にしろ相当な労力が必要になる。
資源や資金など言わずもがなである。
それらの支援があるならまだ分かるが、それもほとんどない。
現地の設備を使わせろというお達しであった。
だが、それはまだ許容範囲ではあった。
自治体の施設や設備も、いってしまえば国の一部と言える。
それを官公庁が使う事に問題は無い。
むしろ、利用を拒む事の方が問題になるだろう。
設備の利用にそれなりの手間がかかるといった理由があるならばともかく。
問題となったのは道中の護衛などについてである。
当然ながらモンスターと接触した時はどうするのかとなる。
有効な反撃の全てを否定されてる新地道からすれば、出来る訳がないと答えるしかない。
何せ新地道におけるモンスターとの対決や駆除は、政府の意向を無視してやってるのだ。
それを政府は黙認してるという事になる。
もし裁判などを起こそうとすれば、訴訟可能で有罪判決間違いなしとなる。
今までそうならなかったのは、新地道側がこれに強く反発し続けてきたこと。
最悪の場合、資源の供給を止めるなどの対応をとってきたこと。
これらが大きな抑止力になっていた。
だが、さすがに本国の人間の前でおおっぴらに武器を使うのは気が引けた。
そうなった場合、さすがに言い訳が出来ないし、黙認も出来ないだろうと思われたからである。
こんなわけで、いったいどうやってまともに護衛をするのか、という事になってしまう。
「せめて法改正をしてこい」
というのが、新地道側の見解であった。
極めてまともな思考ではなかろうか。
しかし、本国の回答はこんな新地道の心配や懸念をこけにするようなものだった。
「現状の制度で自衛や正当防衛は許されてる。
なんら問題は無い」
この言葉に新地道の者達の怒りは頂点に達した。
問題がないというならば、なぜ今まで武装や自衛行為などを否定し続けてきたのか。
これまで新地道が被ってきた被害はどう言い訳するのか。
そういう話になってしまう。
問題ではない事を問題として扱っていたのだから。
当然ながら、政府および行政機関に問いただしていく事にもなった。
政府や行政機関の解釈次第────
言ってしまえばそういう事になる。
本国の者達が勝手に考え、そう思えばそうなるというだけの事になる。
そんなものに振り回され、死ななくてもいい者達が死んでいった。
そんな馬鹿げた話である。
新地道の者達の怒りが爆発するのも無理はない。
「行きたいなら、お前らだけで行け」
新地道が本国政府に突きつけた返答はこれだった。
行くというなら止めはしない。
だが、それについての協力は全て断る。
邪魔もしないが協力もしない。
この消極的な妥協が新地道の出した結論だった。
なお、これでも相当に譲歩したものである。
実際には、外交使節団として派遣される者達を追い返すというのもあった。
それこそ銃口を突きつけ、引き金を引いて死体にして。
それほどまでに本国政府の対応は新地道の神経を逆なでしていた。
誤字脱字報告、もらったところは適用済み




