66回目 第三大陸における最初の進出予定地 3
「とにかく戦闘部隊だな。
第三大陸の安全確保を理由にして、それだけでも送ってもらえないもんかな」
「第二大陸の方は配備したからな」
住民保護を名目にして、自治体の戦闘部隊が配置される。
モンスターの脅威から住民を守る為というのが理由になる。
実際、地球の野生動物をはるかに超える危険なモンスターが蔓延ってる。
軍隊並の戦闘力を持つ自治体の戦闘部隊は絶対に必要だった。
自衛隊には及ばないまでも、自治体の保有する戦力としては過剰な火力を持っている。
最悪の場合を想定して、それらが駐留してもらわねば困るのだ。
「第三の方にも来てもらわないと」
「そうなんだけどな。
でも予算や準備の問題があるから難しいらしい」
「向こうが言ってきたのか?」
「交渉担当をしてる奴から聞いた。
あちらもやる気はあるらしい」
「それはありがたい」
実行されなければ意味がないのは確かである。
だが、そもそもやる気が無いのでは余計な手間がかかる。
気持ちがあるだけマシというものだった。
「出来ればそれなりの戦力をもってきてもらいたいけど。
無理かな」
「難しいだろうな」
「はっきりと相手が敵対してるならともかく」
「人の目もあるし」
「そうだよなあ……」
それもまた問題だった。
確かに住民保護の為に部隊を展開するのは当然である。
だが、強力な戦力を一気に集めるわけにもいかない。
そんな事をすれば、多くの者達が不審に思いはじめるだろう。
何もない所に、なぜあれだけの戦力を動かすのかと。
今の段階でそれは避けたかった。
人々が不安を抱くからではない。
それによって政府の介入を招きかねないからだ。
現時点で一番の敵は政府である。
それが腑抜けた対応をして被害が拡大するのが怖い。
何せ、モンスターがいるというのに、それへの対応で常に後手後手に回り続けたのだ。
襲ってくるモンスターの殲滅もせず、野生動物への扱いと同じ程度で済まそうとした。
それでは埒があかないと新地道の者達が武器を持って対処しようとしたら、それも邪魔をした。
銃器の保持に厳しい制限があるのは分かるのだが、現地の状況を省みない対応である。
それにより新地道の者達は日本政府に愛想を尽かしている。
そんな政府が、来訪者への対応で適切な処理をするとは全く思えない。
それが来訪者の存在を知る新地道の人間の共通見解だった。
なので、日本政府には決して行動させない。
モンスターの時のように、被害が出てもろくに対処しないというのであれば困ってしまう。
また、対処しようとした新地道の動きを、政府の立場を用いて止められるかもしれない。
そうなったら、事態は本当に最悪の所まで行くかもしれない。
身を守る為の戦闘すら否定してきたのが日本政府である。
そんなものを信じる者など、新地道にはほとんどいない。
かつてはそんな者達もいたが、そのほとんどはもう存在しない。
連続して発生した不慮の事故でこの世を去っている。
現在、新地道において政府をあてにするような者は、その意向に従おうという者は皆無に等しい。
だからこそ、戦力の極端な移動は避けねばならなかった。
それがあるに越した事は無いが、余計な気を引いてはいけない。
それによって無駄な介入をするきっかけを作りかねない。
情報はどこからともなく漏れるものではあるが、漏洩する部分は極力少なくするべきである。
それもあるから、自治体の戦力の移動は、極力目立たないように進めるしかなかった。
「ただ、交渉に出向く担当者が来るまでには、ある程度の戦力は移動させておかないと」
「それを理由にして、戦力を出させてみるか?」
「やろう。
他にも手段があるなら何でもやっていこう。
なんなら、第三大陸で強力なモンスターが出たっていうデマを流してもいい。
この際どんな手段をとっても構わない」
今は戦力の拡大の方が優先される。
多少の嘘もやむをえないものとして納得するしかない。
最悪の場合、事実を公表して『これが理由であった』と言えばいいだけの事である。
それで誰が責任をとるという事もない。
必要な措置を行うために、やむなくとった手段という事で押し通せる。
それよりも、損害が出る方が問題だった。
後日、新地道自治体の戦闘部隊が第三大陸に移動を開始する。
第三大陸の住民保護を名目として、まずは少数の先行隊が。
それに続いていくつかの部隊が続く事になる。