62回目 休暇 2
「それは分かるんだけどね」
アマネもタクヤの置かれた立場を理解している。
だからこそ殊更仕事の中に踏み込むような事は聞かないでいる。
会社に入って業務について話す事の危険性を教えられてるからだ。
迂闊な事は聞けない。
ただ、それはそれである。
家族に連絡を取らないのとはわけが違う。
「生きてる事をはっきりさせるだけでいいんだから。
メールの一つも打っておけばいいってだけなんだし」
タクヤの母が求めてるのもそれくらいである。
今どうしてるのかという詳細までは求めてない。
ただ、生きてるのかどうかだけは確かめておきたいのだ。
戦闘部隊所属だからこそ、生存してるかどうかが気になるのだろう。
また、それだけならばメールを打つだけでも用事を済ませる事が出来る。
「それくらいしてやりなって」
「面倒だな」
そう言いつつもタクヤは携帯電話を取り出す。
電波状況は最悪だが、通じないわけではない。
短い文を書き込み、すぐに送信する。
それを横で見ていたアマネは呆れた。
「いくら何でも、『生きてる』ってだけなのはどうなの?」
「面倒だからな」
生存報告ならこれだけで充分だとタクヤは思っている。
「これ以上何を書けと」
「うーん、でももっと何かあるんじゃないかな」
苦言を呈そうとするアマネ。
しかし、それ以上言葉も出ない。
呆れた顔を浮かべるに留まってしまった。
「でも、本当に大丈夫なの?」
「何がだ?」
「仕事のこと。
危険なんでしょ」
「まあな。
どこからモンスターが出てくるか分からないし。
気は抜けないな」
「続けていけるの?」
「どうにかなるんじゃないか。
父さんだってやってたわけだし」
彼の父親は20年以上の長期にわたって戦闘部隊で活動していた。
気をつければそれくらい長く活動は出来るという事である。
「死なないようにすりゃいいだけだ」
それが難しいのは分かってるが、つとめて軽い調子で言う。
下手に重苦しく考えても仕方がない。
こればかりは自分達の努力だけでどうにかなるものではない。
相手がある事である。
また、運も絡んでくる。
努力も必要だが、それ以外の要素も関わってくる。
どうにか出来ない部分については、なるようになると思って諦めるしかない。
「でもまあ、これで用件は済んだな」
メールで呼び出された理由は済ませた。
これ以上ここにいる理由は無い。
「食い終わったら帰るぞ」
「えー。
もう少し遊んでもいいじゃん」
「遊ぶって何するんだ?
何にもないぞ、ここ」
「いや、せっかくなんだし」
そう言ってアマネは自分の座ってるバギーを指す。
「これで、ね」
「…………」
言わんとしてる事を察して、タクヤはうなだれた。
「それが目的か?」
「さあ、何の事でしょう」
面白そうに言い返すその口調で、タクヤは疑いを確信に変えた。
ようは、アマネも遊びたかったのだろう。
何も無い所である。
年頃の娘にはつまらない場所でしかないのだろう。
そんなアマネにとって、タクヤ(の持ってるバギー)は都合が良かったのかもしれない。
気軽にドライブを楽しむには。
タクヤの母からのお願いも都合の良い言い訳に使える。
そういった事を悟ってしまった。
「燃料代は出せよ」
そう言ってエンジンをかける。
需要に生産が追いつかないので、新地道は全体的にインフレ気味だ。
生活が苦しくなるほどではないが、物価は高い傾向にある。
バギーを動かす燃料も本土に比べれば割高と言える。
給料はそれなりに出ているが、無駄遣いすると一気に懐が寂しくなる。
遊びに付き合わされるのだから、その分は出してもらわないと割にあわなかった。
「はいはい。
分かってますよ」
我が儘を言わないのは、アマネの良い所ではあった。
遊ぶために呼び出した事と帳消しになるほどではないけども。
ただ、なんだかんだでタクヤもバギーでの散策をそれなりに楽しみはした。
仕事で走ってると嫌気がさす事の方が多いのだが。
周りに気を遣わない、生死の境目にいないというのは大きい。
走り回れるような場所なんて限られているし、同じ所を何度も回る事にはなる。
それでも、風を感じながら比較的安全な速度で走るのは気持ちが良かった。
(結構いいもんだな、こういうのも)
意外な発見であった。
仕事も生活も関係なく走ってまわるというのが楽しい。
休日、やる事がなければこうやってるのも良いかと思った。




