58回目 周辺探索 6
企画部におけるこうした決定は、各方面や部署に大きな波紋を投げかける事になる。
もともと足らずがちだったところに、更なる供給不足が襲う事になるのだ。
衝撃が発生するのは当然である。
しかもそれが、不測の事態や不慮の事故によるものではない。
明確な意志決定によって行われるのだ。
何らかの意図によって起こされるのだから、しわ寄せがくる所はたまったものではない。
「どういう事なんだ!」
という声が次々に企画部によせらる事になる。
これらに企画部は、会社の一大事業のため、といって凌いでいった。
機密性が高いので内容の説明は出来ないとも。
実際、まだ外に漏らすわけにはいかない秘密となっている。
嘘は一切吐いてない。
だが、そんな事でしわ寄せが来る所が納得するわけがない。
これまでどうにかやりくりして進めていた事業を、一時的とはいえ停滞させてしまうのだから。
社内だけの問題ならそれでもどうにか取り繕う事が出来たかもしれない。
しかし、事は一井物産だけで済ませられるわけではない。
関係するところにも影響が出る。
それは取引先であったり、競争相手だったり様々だ。
これらにも迷惑をかける事になる。
その矢面に立つのは、実際に業務に携わってる者達である。
そうした者達からすれば、理由も明らかにされない何かせいで糾弾されるのだ。
たまったものではない。
それでも企画部は第三大陸の開拓と開発を強引に進めていく。
それは一井物産の総意でもある。
加えていうならば、新地道自治体の意向でもある。
今はまだ表に出すことは出来ないが、これらをはねのけるわけにはいかなかった。
事業としての損得がかかってるだけではない。
人類の今後がかかってるかもしれないのだ。
開拓や開発の先駆者としての利益もおおきいが、それ以上に責任を持つ立場にある。
相手の動きに対応しなくてはならないという。
もし対応に失敗をしてしまったら、その時の損失はどれ程大きなものになるか分からない。
発生してしまってる様々な問題すら吹き飛ばすほどの大騒動になるかもしれない。
それこそ新地道の壊滅もありえる。
事が平和的に終わるなら良いが、そうならない可能性もある。
それを考えると、優先順位がどうしても変わってしまう。
仕事も利益も発展も、全ては新地道が存続してるのが大前提だ。
それが覆される事になったら、不平も文句も言えなくなる。
世の多くの者達が知らないでいる来訪者の存在には、それだけの可能性が秘められている。
だからこそ一井物産としては、この問題を後回しには出来なかった。
会社の内外から激しい糾弾が起ころうとも。
ただ、こうした無理のおかげで、第三大陸における動きは更に加速していく。
上陸地点の開発も、未開地の探索も大幅な進展を見せるようになっていく。
無理をして運行本数を増やした船便のおかげで、物資の供給がかなり円滑になった。
その物資を用いて、様々な作業が進んでいく。
人員も増加し、慢性的な人手不足もある程度は解消された。
第三大陸に限っていえば全てが予定や想定通りに進んでいく事になった。
技術者も経験者も少ないという事に変わりはなく、何をするにしても試行錯誤と失敗を繰り返す事が多かったが。
それでもあらゆる作業がそれなりに進むというのは、他の場所や部署や方面からすれば羨ましいものであった。
探索業務も例外ではない。
道路の敷設や中継地の建設なども始まり、進出距離は増大する。
予定されていた目的地にはまだ届いてないが、到達が見込める範囲におさまってきた。
問題があるとすれば、そこまで出向くためにタクヤ達戦闘部隊がかなりの無理をした事。
それらを追いかけるように道を切り開いていた工事担当者もだ。
彼等は己に与えられた作業をこなすために、凄まじい努力を払い、汗と涙を流し、罵声混じりの怒声をあげていた。
そのおかげで遅れがちだった作業工程はかなりの追い上げをみせた。
作業従事者達の疲労の増大と共に。
「誰だ、こんな無茶を考えた奴は」
そんな怨嗟の声をあげるタクヤに、周囲の者達は概ね同調していた。
物資が比較的充足されてるにも関わらず、彼等の憤りはそれなりに大きい。
彼等の場合、物資が充分に行き渡ってきたから無理をさせられてると言えるが。
結局、仕事が停滞しても、忙殺されるほどに躍進しても、人が文句を言うことに変わりはない。
「企画部でしょ、どう考えても」
「あそこは色々と考えてるみたいですからね、仕事とかを」
「この忙しいのも、そうなるように計画したんでしょう、きっと」
班員達もこのようほざいてタクヤの憤りに同調していく。
そこに正当性や妥当性が有るかどうかなど関係が無い。
原因を作った連中にはそれなりの対処をしてもらいたいとは思うが。
目下の所、タクヤ達に必要なのは、どうしようもない憤りをぶつける先である。
それが八つ当たりであろうと関係はない。
やりたいのは、積み上がる一方の憤りの甲斐性なのだから。
なお、企画部はこういった事に対応する事をとっくに放棄していた。
どっちに転んでも文句を言われるし、どのように対処しても不満が出てくる。
何をしても駄目になるのだから、諦めて自分らの仕事を押し通す方が良いという結論になる。
部署間の不和と摩擦はこうして生まれるのだろう。
少なくとも、様々な原因の一例ではあるかもしれない。