56回目 周辺探索 4
「どうにも重いな」
「何がだ?」
「作業の動きだ」
一井物産企画部では、そんな声が上がる。
「護衛艦が増えて船便も増やせたけど。
それでもまだ足りない」
輸送量は上がったが、それもすぐに頭打ちになる。
一度に運べる量と、運ぶ回数が増えたとしても、それも限界がある。
「もっと護衛艦が増えないとどうしようもないな」
「かなり急いで増産してもらってるんだけどね」
艦船そのものの生産速度はかなり速い。
名前の由来となった第二次世界大戦の松型駆逐艦と同様、生産性を重視した艦船だ。
一隻の建造完了までにかかる時間は半年ほどである。
この調子で建造してるので、数を揃えるまでの時間はそれほどかからない。
だが、それでも半年である。
今すぐ輸送力を上げたい現状では、やはり長い時間に感じられてしまう。
加えて、乗船する搭乗員の訓練時間もある。
この育成時間を考えれば、やはり簡単に護衛の艦船を増やす事は出来ない。
将来を見込んでかなりの人数が訓練に励んでいるのだが。
それらが訓練を終え、実際に乗船し、実際に艦船を動かしてモンスターを撃退出来るようになるまでには相応の時間が必要になる。
単に訓練を終えてそれで終わりというわけにはいかない。
実際に海に出て航海が出来るように、なおかつモンスターを撃退する事が出来ねばならない。
そこまでには早くても数年の時間が必要となる。
実際、現時点で輸送船団護衛についてる艦船の搭乗員は、まだそこまで到達してない者が多い。
ある程度の訓練が終わった段階の者がほとんどだ。
航海にしろ戦闘にしろ、まだまだ未熟な部分が多い。
そんな者達すら駆り出さねばならないほど事態は切迫していた。
「これ以上無理させるわけにもいかないが……」
「でも、確かに今のままだとな」
「輸送力が足りない」
誰もが危惧してる事実を口にする。
かなり無理をして輸送力を上げてはいる。
これが平和な時期であったならば、驚異的な進展速度と言えただろう。
しかし、今はそうではない。
正体不明の相手がいて、それに対応しようとしてる最中である。
今の状態ではそれが遅れてると言える。
求める水準にはとうてい達してない。
「とにかく探索を更に進めないと。
まだ目的地に全然到達出来てない」
焦る理由はそこだった。
上陸地点から数百キロほど離れた場所にある開けた土地。
そこを拠点として来訪者と接触するつもりであった。
しかし、実際にはまだそこにすら到達してない。
未だに上陸地点から数十キロ辺りまでの探索で止まっている。
通行可能な場所が存外少なかったせいである。
そこを打破して進出距離を増やしてはいるのだが、それでもまだ予定地点には遠い。
数百キロ先にある目標地点に行くためには、間に数カ所は中継地点を作らねばならない。
その建設すら目処がたってない。
それを作るための人や物がどうしても確保出来ない。
「上陸地点をもっと拡大しないと」
これが先に進めない理由だった。
「まだ燃料や物資の貯蔵施設が足りない。
もっと集めないと先に進むための工事すら出来ない」
「けど、まだそこまで手を出せる状態でもない」
「まともな港すら出来てないからね」
いまだ浮き桟橋で陸揚げしてる状態だ。
それでもかなりの物資を持ち込めるが、本格的に船の行き来を考えるならこのままという訳にもいかない。
「早くどうにかしたいな」
「けど、港を作るだけの材料も人手もないからね」
「結局はこのまま何とかするしかないのか」
「第二大陸だってまだまだだしね」
先に開拓が始まっていた第二大陸ですら、港はまだ完成してるわけではない。
一部は使用可能になったが、全てが使えるわけではない。
いわんや第三大陸において、である。
どうしても開拓や開発が遅れる第三大陸が、第二大陸よりも設備が揃っていくわけがない。
最も開発が必要であるにも関わらず、第三大陸の発展はまだまだ低いところに留まっていた。
もらった誤字報告分は適用済み