54回目 周辺探索 2
それから数日。
タクヤの言う通り、探索隊は散々迷いながら進んでいった。
衛星軌道からでは分からない地上の状況がそうさせた。
平坦に思えた場所も、意外な凹凸がある事。
通り抜けられそうなほど疎らに生えてる木々が、意外と密集してる事。
思いも寄らないところで水が湧いており、地面がぬかるんでタイヤが嵌ってしまう事。
様々な問題がタクヤ達の前にあらわれた。
それらを迂回したり強行突破したりして先へと進んでいく。
多難な行程に探索隊の誰もが音を上げていた。
モンスターとの遭遇もある。
木々の間を進んでくるモンスターと、否応なしに銃撃戦に度々陥った。
それこそ体当たりされる車輌すらも出てきてしまった。
軽装甲車であればそれも問題はなく凌ぐ事は出来たのだが。
一般車両の改装型だと結構大きな傷になる事もあった。
走るのに問題は無いが、外装に穴があいたりもした。
ただ、即座に修理が必要なほどの損傷ではない。
その為、ある程度探索が進むまではそのまま行動する事になった。
進むごとに傷を増やしていく探索隊。
その傷ほどに成果は上がらないのがもどかしかった。
戻るのが決まったのは、出発してから数日後。
残りの燃料や食料、弾薬がそろそろ危険水準に入ってきた。
まだ半分以上、6割余りは残っているが、無理をして先に進むのも危険である。
余裕があるうちに帰還するのは、何がどうなってるか分からない場所での鉄則だった。
彼等に求められる仕事は、現地の調査である。
手に入れた情報を確実に持ち帰らねばならない。
その為にも、余裕のあるうちに引き返す必要があった。
情報そのものは、無線や通信衛星を通してほぼ即座に届ける事が出来る。
通信用のパッドに取り込んだ衛星写真に、タッチパネルで様々な情報を書き込んでいける。
そういった画像などを探索隊は後方に送る事が出来た。
これらを考慮すれば、全員が帰還する必要性は低くはなっている。
だが、カメラを通した視界だけではとらえきれない事もある。
実際に出向いた者達の体感した事にも重要な情報が含まれてる事もある。
現地で得た見解は、それこそ本人にしか分からない。
それらが無ければ分からない事もあるのだ。
何より、無理をして進軍して、それで全員立ち往生してしまっては意味が無い。
挙げ句に全滅となれば、取り返しの付かない損失となってしまう。
人命は何ものにも代え難い…………という人道的な見地だけの話ではない。
探索に赴けるほどの人材や、その為に投入した機材や資源が消滅する。
これは経営的な損得勘定で考えても割に合わない話である。
想定外の事態で失ってしまったのならば仕方が無い。
だが、避けようと思えば避けられたのに損害としてしまうのは馬鹿げてる。
全ての利害で考える企業からしても、ここで探索隊を失うのは無駄な損失でしかない。
そんな事になるくらいならば、安全なうちに帰ってくる事を求める。
企画部からしても、そんな事は願い下げだった。
彼等からすれば、出来るだけ長く探索を続けてもらいたいと思ってる。
その為にも確実に生還してもらわねば困る。
まだ序盤の今の段階で無理をして欲しいとは思ってない。
もしここで損害を出してしまったら、彼等自身の進退にも関わってくる。
ただでさえ人手が少ないのに、無理をして探索隊を出したのだ。
しかも、貴重な戦闘部隊をである。
それをいきなり潰してしまったら、彼等の今後の活動に支障が出る。
少なくとも、提案などは通りにくくなる。
部隊を動かす権限なども相応に制限されるかもしれない。
そうならたない為にも、無理や無茶は避けてもらいたいと思っていた。
実際、探索隊には確実に帰還する事を最優先事項に掲げてるくらいだ。
もちろん、何も成果も上げずに帰ってこい、というわけではない。
可能な限り遠くまで、目的地の近くまで探索をしてもらいたい。
その上で、無理をしないようにという事になる。
手抜きやサボりはさすがに許す事は出来ない。
真面目に仕事をして、その上で無理をしない事を企画部も求めていた。
そんな思惑などもあり、探索隊は適度な所で帰還する。
損傷を受けた車輌もあるので、その修理も必要だ。
また、持ち帰った情報をもとに、通行可能な場所や不可能な部分がはっきりしている。
それを元に、次の探索においては効率的な進み方が出来るようになる。
次回以降は、もう少し先まで進む事が出来るはずであった。
加えて、別方面からの移動も考えていく事になる。
目的地まで行ける道が一つだけなのかどうか。
それを確かめねばならない。
もし効率の良い道が他にあるならば、そちらを進んだ方がいい。
その開拓も探索に求められていた。
もっとも、さすがにこれはさほど期待されてるわけではない。
衛星軌道からの撮影で、どうしても不可能と思える部分も発見されている。
そこを通り抜ける事は無理である。
だからこそ事前にある程度の道筋を見つけているのだ。
これは、万が一の可能性を考えての事である。
また、周辺地域の調査が主な目的になっていく。
新たな道の発見は、出来たら良いというくらい望みの少ないものととらえられていた。