44回目 新たな大陸にて 9
新たな開拓地における駐在勤務。
一井物産内において発表されたそれは、様々な反応を引き起こしていた。
「またやるのかよ」という呆れた声もある。
「どこでやるんだ?」という困惑の声もある。
「さすがになあ……」という及び腰の声もある。
「まあ、給料はいいけど」と打算的な声もある。
そういった様々な声が上がる中で、アマネも考えていた。
(確かに給料はいいけど)
開拓地における勤務には、それなりの上乗せがなされる。
単純に稼ぎたいだけなら、これほどうってつけの話はない。
だが、その代わりに相応の厳しさもある。
環境の整ってない場所での長期間にわたる滞在が余儀なくされる。
しかも、モンスターの駆除もまだ完全に終わって無い事も多い。
そんな場所での勤務なので、どうしても危険や不便さがつきまとう。
なので二の足を踏む者が多い。
アマネもそれは同じだ。
(さすがになあ……)
今から更に面倒な場所に行くのも躊躇われた。
アマネが就職で一井物産に入る事が出来たのは、こうした勤務地での業務を受け入れたからである。
だから中学卒業で曲がりなりにも一流企業に入る事が出来た。
だが、実際に開拓地にやってきて、その不便さに辟易もしていた。
覚悟はしていたが、まさかこれほどとは思ってもいなかった。
話に聞くのと自分が体験するのとでは大きな違いがあった。
周辺に出向いてモンスターと戦う事はさすがにない。
だが、生活水準というか生活環境がととのってないというのはそれなりに大変なものがある。
風呂やトイレが共用というだけでも面倒が増える。
何せ使用する順番待ちなどが発生するのだ。
しかも、家から一度は出なくてはならない。
それだけでもかなり不便なものである。
他にも大小様々な面倒がある。
それでも、入植当初よりはまだましな状態だという。
ならば、更にこの先の大陸の生活水準はここより大きく劣る事になる。
(どうしよう……)
給料は欲しい。
しかし、不便な所には行きたくない。
まして、この場所より危険であろう開拓の最前線である。
たんに収入の事だけを考えて志願する事は出来なかった。
それに、おそらく店などもこの場より少ないだろう。
無いかもしれない。
このあたりですら、ようやくスーパーマーケットやコンビニが少しだけ出店してきてるくらいだ。
ここより発展してない所なら、各種販売店など存在しないだろう。
必要な物品は会社の流通部門が揃えてはいるだろうが。
しかし、多様性は無い。
必要な種類は揃っていても、その中にお気に入りの製品があるかどうかは疑わしい。
なまじある程度落ち着いた場所で生まれ育っただけに、アマネにはそういう不便さが耐え難い。
我慢出来ないほどではない。
そもそも我慢が必要というわけでもない。
なのだが、一度便利さになれるとそこから外れるのが辛い。
(どうしよう)
もう一度同じ事を胸の中で呟きながら、アマネはこれからについてまた考えていった。