43回目 新たな大陸にて 8
とにもかくにも、別大陸への移動手段と航路の安全確保。
それと通信手段の構築。
様々な公共事業の確立。
これらが必要になっていく。
なお、公共事業は公営の企業活動だけを指すわけではない。
むしろ、そういった要素は少ない。
それ以外の、戸籍管理や学校教育なども含めて多岐にわたる業務がほとんどである。
これらの提供も出来るよう自治体も動いていく。
そうしてる間にも時間は過ぎていく。
終わる事の無い建築ラッシュがあちこちに人工物を作り出していく。
既存の町もその姿を変容させていく。
別大陸も例外ではない。
送り込まれる資材と人員が町を大きくしていく。
資源調査も始まり、有力な候補地には採掘の計画がなされていく。
そこに行くための道作りと、邪魔になるモンスターの駆逐も進む。
町並みも整備されていき、人が生活出来る環境はととのいつつある。
水道や電気にガスなどはまだ普及しきってないが、生活が営める程度には設置されている。
これらのほとんどが共同水道などが大半であるが。
それぞれの家にこれらが普及するまでは時間がかかる。
そもそもとして、発電所や浄水・下水処理などが進んでない。
ガスもガス管ではなく各家庭ごとにタンクが設置されてる状態だ。
電気は各家庭に届いてるが、発電はあちこちに設置された小規模な自家発電装置による。
大規模な施設の建設も計画されてるが、それらが実際に建設されるまでには、まだまだ時間がかかる。
しばらくはこの状態が続く事になるだろう。
それでも、開拓地としてはまずまずの生活水準には到達しつつあった。
(変わっていくもんなんだね)
町の景色を見ながら、雪代アマネはそんな感想をぼんやりと抱いていった。
親の世代から話しに聞く事はあるが、実際に開拓や開発の様子を見るのは始めてである。
なので、町が拡大・変化していく姿を見るのは初めてだ。
それだけに新鮮な気分になれる。
そういった、成長と言える変化は何となく好ましいものだ。
(早くうちにも、トイレや風呂が来てくれるといいけど)
身近な問題の解決と合わせて考えてしまう。
一般的な庶民であるアマネからすれば、喫緊の問題はそこである。
何せ今のところ彼女の住む部屋には、トイレ・風呂・水道などが無い。
これらのほとんどが共用である。
昔はそうだったという親の言葉を聞いて育ってはいたが、そういう状況に自分が置かれるとは思わなかった。
開拓地という事である程度覚悟はしていたのだが。
まさかここまで何も揃ってなかったとは思ってもいなかった。
それだけに衝撃は大きく、やってきた当初はここで生きて行けるのかと本気で不安になったものだ。
だが、人間は馴れるものである。
一ヶ月もする頃にはここの不便さにも馴れてきていた。
それ以上に日々の生活というか仕事が忙しく、細々とした事に目を向けてる余裕が無かった。
それでも町の姿が変わっていく事に目を向ける余裕くらいはある。
次々に建てられていく住居や、新たに設置される設備。
そして、目や耳にする、拡張計画や新たな工事。
この町の発展は確実に進められている事を、そこかしこから聞こえてくる情報が教えてくれる。
ならば早く自分の住処(プレハブの仮設住居)にも及ぶよう願うところである。
もっとも、そこまで隅々に及ぶのは、更に先になるだろうとも分かっていたが。
(何年かかるのかな)
それくらいの時間がかかるものだという事も、親などから何度か聞いていた。
まだ暫くは今のままという事は、嫌でも予想が出来た。
(……どうしようかな)
そんな変わっていく町並みの中を歩きながら考える。
初めてやってきた場所での、馴れない生活。
そして、社会人として始まった日々。
新人研修をこなしながら実務にも携わり、少しずつ仕事をおぼえている毎日。
そんな中で受けた話についてである。
(新しい開拓地か)
社員全員に示された発表は、そこでの勤務についてのものだった。