39回目 新たな大陸にて 4
「動いてるな」
衛星写真で判明した事実に、一井物産企画部の者達は脅威を感じていった。
対象は当然ながら新たな大陸にあらわれた機械集団である。
彼等が作ってる施設群(町なのだろうと人類側も予想はしていた)から外に向かう者達。
その姿はちょくちょく衛星から撮影されていた。
以前からもそういった動きは観測されていたが、最近は大きな脅威としてとらえられている。
「この調子でいったら、いずれこっちと接触するな」
機械の町が拡大するごとに、外に出る機械群の行動も活発化していっている。
おそらくは調査なのだろうと思われる機械集団は、数も行動範囲も拡がっている。
このままいけば、人類が大陸に上陸した地点にまで到達する。
「今の調子なら、まだ余裕はあるけどな」
「でも、警戒しておいた方がいい」
相手の拡大速度と、それに伴う行動範囲の増加はまだゆるやかなものである。
加速をつけてるのは確かだが、そこから予想される進出速度はゆるやかなものである。
「接触までまだ何年も時間がある」
試算されたその時間が、企画部が想定している猶予期間である。
それまでに該当地域での体制をととのえておかねばならない。
言い方をかえれば、まだそれだけの猶予があるとも言える。
「焦らず確実にやっていこう」
どのみち、すぐに何か出来るわけではない。
彼等は彼等に出来る事を着実にやっていくしかなかった。
ただ、手をこまねいてるわけにもいかない。
周辺地域の調査を進め、地形の把握なども進めていく事になる。
いざというときに、周囲の状況が分からないとなると、対応が遅れる事になる。
上陸地点の周辺地域だけでも良いから、地形がどうなってるのかも調べておく事にはなっていた。
だが、それだけで大丈夫なのか、という意見も出て来ている。
「調査範囲をもっと拡げて、行動出来る場所を増やした方が良いのでは?」
もっともな話ではある。
把握できてる地形が広ければ広い程、行動範囲もひろがる。
全く調査がされてない地域よりも、少しは調べられてる場所の方が行動はしやすい。
「もし、衝突するような事になれば、動ける場所がないとまずい」
「それはまあ」
「確かにそうですが」
「でも、それだけの余裕が……」
言わんとしてる事は分かるが、現状ではそれを実行するのもままならない。
相変わらずの人手不足に物資不足である。
やりたい事に人手を割くのも難しい。
「せめて来年になれば」
「新人が入ってくるのを待つのか?」
「そうするしかないですから」
今のところ、確実に人手を確保するにはそれまで待つしかなかった。
「こればかりは仕方ないか」
無理は出来ないと分かってるので、それ以上強行に主張するような者はいない。
やりたい事ややるべき事は後日にまわして、目の前の問題にとりくんでいく。
「けど、出来るだけ早いうちに調査はしておきたいな」
先々の話であるという前提で検討はされていく。
「可能ならば接触してみたいところだけど」
そういった要望も出されていく。
相手の出方を知るために必要な事だ。
それもいずれはやらねばならない事になるだろう。
「けど、危険がともなう可能性がありますよ」
「ある程度の装備は持たせる必要があるでしょうね」
未知の存在との接触が不幸なものとなる事も考え、対応策も考えられていく。
その際に、自分達の持ってる兵器がどこまで通用するか。
そして、損害をどこまでおさえられるか。
それを彼等は考えていく。
ただ、情報がすくな過ぎて効果的な手段を提示する事が出来ない。
可能な限りの重装備と、可能な限りの装甲車両を用意するというのが限界だった。
同時に、意思の疎通方法についても考えられていく。
相手がどのような思考をして、どのような伝達手段を持ってるのか分からないので、これも検討するだけで終わってしまうが。
何せ、人間のように声や耳を持ってるのかすら分からないのだ。
対応しようがない。
仮に音声による意思の疎通が出来るとしても、言語が通じるかどうかも分からない。
最悪、不幸な結果に終わる可能性もある。
それでも、可能な限り意思の疎通をはかる手段を考えていく。