34回目 海を守る者達
呼び集められてから数日。
タクヤ達は更に別の大陸への移動を開始していた。
この為に集められた貨物船や輸送船に乗り込んで。
これから向かう大陸に、上陸のための橋頭堡を作るための物資ものせて。
それが今回の行動が一時的なものではない事を示していた。
「それで、今回もあれに守ってもらえると」
貨物船の上でタクヤ達は、護衛をしてる艦船の一つに目を向ける。
それらは貨物船団から離れているので肉眼で見るのは難しい。
だが、職業柄所持している双眼鏡でその姿をとらえる事が出来る。
「ありがたいですね」
「というか、過剰すぎるんじゃないか、あれの戦力からすると」
「四隻全部持ち出してるしな」
驚きながら護衛の艦船を見つめるタクヤ達。
その声と表情には、自分達の周囲を守る者達への全幅の信頼が込められていた。
実際、タクヤ達の護衛についてる艦船にはそれだけの能力があった。
とはいえ最新鋭というわけではない。
新地道において建造された艦船としては、最も古いものではある。
そして、そもそもそれらはかつて海上自衛隊で使われていた艦船の再生産品でもある。
更には、搭載機器や武装などを試験的に積み込むためのものであった。
能力で言えば地球における最新鋭には大きく劣るだろう。
もともとは、造船の経験のない新地道が、まずは経験を得るために作ったものでもある。
しかし、新地道の海洋防衛の黎明期を支えた存在でもある。
沿岸沿いとはいえ新地道の海運を守った功労者であり、防衛や護衛に携わる携わる者達の間では知られた存在でもあった。
また、別大陸に移動するにあたり、その海上護衛を担った艦船でもある。
それが出来るだけの探知能力と戦闘能力。
そして、航続力があった。
沿岸沿いの近海防衛のために建造された松型護衛艦とは、その一点で大きな差があった。
その為、現在も長距離航海の護衛にはこの艦艇が用いられている。
かつての海上自衛隊で用いられていたやまぐも型護衛艦、そしてみねぐも型護衛艦をもとにしたこの艦艇は。
それらが現在周辺を警戒している。
それだけ今回の作業が重要で、確実性を期したいのだろう。
貴重な資源を割いて、必要な機材を作って用いてるのだ。
当然と言えば当然である。
海上航行中にこれらを失うわけにはいかない。
わずかな損失であっても、それらが後々にもたらす影響は大きい。
ちょっとした損失であっても、その補填の為に資材や機材を割り当てねばならない。
人員に関しては機材以上に補填が難しい。
人命の重要性という人道的観点をあえて無視したとしても、その損失は大きい。
人が生まれてから大人としての能力を期待出来るようになるまで、最低でも15年ほどはかかる。
そこから必要な技術などを身につけるとなると、更に数年の時間がかかる。
一人の人間が失われると、この年月が失われる事になる。
機械の損失など比ではない程の損害になる。
人を機械のように部品として扱っても、これだけ大きな損失となる。
そんな貴重な存在を簡単に失うわけにはいかなかった。
その為に、現有してる最上位の戦力になる護衛艦を輸送船団につけていた。
その護衛艦は担う任務の重要性から常に緊張を強いられている。
海上戦力としてはいまだに新地道において最上位ではあっても油断は出来ない。
探知能力も攻撃力も大きいとはいえ、それで護衛対象を完全に守れるとは限らない。
探知範囲外からモンスターが接近する可能性もある。
仮に脅威を見つける事が出来ても、攻撃可能な範囲に敵がいるとは限らない。
その為、常に脅威を即座に発見出来るよう注意が必要だった。
また、見つけた脅威を即座に排除出来るような位置取りが求められた。
護衛対象に対して明らかに少ない艦艇数では、それを行うのは難しい。
だが、それでも彼等は困難なこの任務を遂行するしかなかった。
ここで護衛対象の輸送船を少しでも失ってしまえば、今後の活動全てに悪影響が出るのだから。
そうでなくても、輸送船に搭乗してる者達の命がかかってる。
決して気を抜く事は出来なかった。




