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32回目 必要な事を伝えはするが、要望には一切こたえず

 劇的でも何でも無い、ごくごく淡々と、たいして盛り上がる事もなく。

 そんな再会を終えた二人は、割と淡々と言葉を交わしてバギーに乗り込んでいく。

「それじゃ、行くぞ」

「はいよー」

「しっかり掴まっておけ。

 そんなに速くは走らないけど、何かあったら危険だからな」

「うん」

 言いながらタクヤの背中にしがみつくアマネ。

 当然ながら胸の感触などがタクヤの背中に押しつけられる。

「一応言っておくけど、変な事考えないでねー」

「あばら骨の感触でどうしろと?」

「失礼な」

 そう言いつつ二人を乗せたバギーは走りだす。



 舗装はされてないが、平らに均された道路を進む。

 乗用車よりも運搬車輌の方が多い道である。

 まだまだ開拓や開発が続行されてるのをその姿が示している。

 そんな中をバギーで走りながら、二人はアマネの宿舎へと向かっていく。



「いやー、迎えにきてもらって正解だったよ」

 宛がわれた宿舎の前で降りたアマネは、ヘルメットをとってそう言う。

「バス停、凄かったからねー」

「確かにな」

 言われてタクヤも頷く。

 新人達がやってきてるのもあって、バス停は凄まじく混んでいた。

「あれ、何回か待たないと乗れないだろうな」

「バスの中も大変だったしね」

「確かにな」

 走ってる途中でみたバスの中は、混雑も良い所だった。

 新開市でようやく開通した電車の混雑時のようであった。

「あれには乗りたくないな」

 つくづくそう思う。

「私は明日からあれなんだよね」

「がんばれ、負けるな、応援してる」

 これから朝晩の通勤退出時にはあの混雑にまみれるのかと思うと同情してしまう。

「なんなら毎日送り迎えしてくれるとありがたいんだけど」

「却下だ」

 アマネの提案と要求を即座に拒絶する。

「そんな余裕なんかあるか」

「けちー」

「こっちも仕事があるんだよ」

 他人の送り迎えをしてやれるほどの余裕は無い。

「そんな事より、荷物を置いていけ。

 この周りも見ておくから」

「はーい」

 言われてアマネは素直に返事をする。

 この周辺に何があるのかを把握しておこうという意志はある。

 今後の生活もあるので、なるべく早めに知っておきたいところでもあった。

 幸い、荷物は少なく、家具なども揃っている。

 荷解きをする必要はないので、荷物を置けばすぐに出かける事は出来る。

 すぐに出てきたアマネは、「それじゃ行こう」と促す。

「何かおごってくれる?」

「おねだりをするガキは嫌いだ」

「えー」

 ふざけながら店のある場所へと向かう。



「けどさ、何でまたこっちに?」

「んー?

 何でって何が?」

「仕事だよ。

 向こうにもあるんじゃないのか?」

「まあ、それはね」

 新地道なら就職先には困らない。

 仕事を選ばなければ、というのはつきまとうが。

 それでも中卒での就職もそれほど難しくはない。

 さすがに大企業の本社勤務や出世コースは難しい。

 それでも、それなりの規模の会社に採用される事だって不可能ではなかった。

「でも、お給料を考えるとね」

「まあ、そりゃあこういう所の方が高いだろうけど」

「それに、天下の一井物産だし」

「そこか……」

「そうだよ。

 やっぱり、出来るだけ大きい所の方がいいからね」

 かなり現実的な理由である。

「中卒で一井物産に入るとなると、こういう所でのお仕事も覚悟しないと」

「まあなあ」

「兄ちゃんもそうだったでしょ」

「ああ、そうだな」

 タクヤも武装警備隊に入るからこそ中学卒業で一井物産に入る事が出来た。

 危険な部署だが、そうであるからこそ学歴なども不問で採用された。

 若年層が少しでも良い所に入ろうとするなら、これは飲み込むしかない要件である。



「でも、お前なら家で働いてても良かったんじゃないのか?」

 アマネの家はコンビニである。

 子供の頃はそこで買い物をしたものである。

「それがお父さんもお母さんも、

『少しは外を見てこい』

って言ってね」

「なるほど」

 修行のつもりで外に出したのだろう。

「それに、兄ちゃんもいるし」

「それもそうか」

 男兄弟がいてそれが店を継ぐなら、アマネが店に出る必要も無いのだろう。

「まあ、独り立ちするかもしれないし、それならそれなりに稼げないと困るしね」

「それでウチか」

 なんだかんだで事業規模を拡大してる一井物産である。

 将来性や経営規模を考えれば、就職先としては超有望だ。

 入れるならそこにいた方が良いと考えるのは当然だろう。

 例え末端にいたとしても、破産や倒産の危険性は低いのだから。

 長年居続けるなら、なるべく経営が安泰なところの方が良い。

「家で自称家事手伝いしてるよりはいいだろうし」

 何にしても、世知辛い理由ではある。



「そんなわけでよろしくです」

「はいはい」

 適当に返事をする。

「けど、俺もすぐに仕事で移動だから」

 そうそう付き合ってもいられない。

「今月はともかく、来月からは一緒ってわけにはいかんと思うぞ」

「えー。

 それ困る」

「困るって言ってもな」

「どうにかならないの?」

「なるわけないだろ。

 仕事なんだから」

「むぅ……。

 それはちょっと困る」

「何がだ」

「落ち着くまで兄ちゃんにたかろうと思ったのに」

「……なあ、もう帰っていいか?」

「いやいや、町の案内とかはしてよ。

 ついでに何かおごってくれればいいから」

「本当に帰るぞ」

 そう言って予定を切り上げようとする。

 アマネはそんなタクヤに、

「まあまあ、かわいいご近所さんを放り出しちゃいけないよ」

と止める。

「どこが可愛いんだ?

 見た目も中身も可愛げがないんだが」

「えー、そんな事ないでしょ」

 言いながら立ち去ろうとするタクヤの腕を掴む。

 掴むというより抱える。

「仕事でいなくなるまででいいから、お願いしますよ。

 先輩なんだし」

「いつから後輩になった」

「それは、同じ会社のよしみと言う事で。

 部署が違ったら、他人だ」

 しがみつくアマネを振り払うそぶりをしてタクヤは突き放す。

「せめて可愛い後輩っぽくしてから言え」

「はーい、がんばります」

 わざとらしい敬礼。

 それを見てタクヤはため息を吐いた。

 昔からこんな調子だったなと思いながら。

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おまえら、教えやがれ
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http://rnowhj2anwpq4wa.seesaa.net/article/479725667.html

『ピクシブのブースを使ってるので、その事を伝えておかねば』
http://rnowhj2anwpq4wa.seesaa.net/article/477601321.html

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