31回目 やってきたそいつは相変わらずであった
(けど、大丈夫なのか、これは?)
あらためて現地の様子を見て、少しばかり不安を懐いた。
大量に人が到着した為だろう、現地には大勢のオノボリさんがいた。
見るからに緊張してる、そわそわしてる、周囲を見渡してる者達が固まってる。
(うーん、もっと別の場所を指定した方が良かったか?)
待ち合わせ場所として分かりやすい目印のある所を指定したのが仇になりそうだった。
仕方がないので、それでも携帯を片手に目的の人物を捜していく。
画面に表示させた、本人の自撮り画像をもとに。
これも待ち合わせに必要だと思ったので要求したものである。
なお、相手からも、『それならこっちにもそっちの自撮り画像をお願いねー』と言われた。
二日遅れで届いたメール(日付と時刻で何日遅れかは分かる)のその文面を読んで、タクヤは顔を引きつらせた。
それでも、お互い見た目が分からないとまずいだろうと思って、泣く泣く自分の姿を携帯のカメラで撮影した。
素面を保つ事が思いの外困難であったのは言うまでもない。
(流出しなけりゃいいんだけど)
そんな心配もした。
(それで本人は……?)
待ち合わせ場所を眺める。
かなりの人数がいるので見つけるのも大変そうだった。
だが、この中にいるのなら、端から探せばいいと腰を据える。
時間には余裕があるのだから、さして問題はない。
なのだが。
(……いない)
見落としたのかと思ってもう一回探してみたが、やはりいない。
時間を間違えたかと思ったが、それは問題なかった。
強いて言えば、約束より何分か早く到着したくらいだ。
だが、それとて大きな問題にはならない。
(まあ、こんだけ混雑してるし、遅れてるんだろうけど)
船便もバスも人がいっぱいで遅れてるのかもしれない。
その可能性もあるので、時間に遅れるのも仕方ない事ではある。
なお、電車はまだこの大陸では走ってない。
鉄道網を構築する程の余裕が無い。
公共交通機関は、基本的にバスだけである。
ついでに言えば、道路も完全に舗装されてる部分はまだまだ少ない。
何もかもが発展途上であった。
(しょうがない、待つか)
今のところ取り得る選択肢はそれしかなかった。
そして待つ事一時間。
目的の人物が大きめの荷物をもってようやくあらわれる。
人混みの中をどうにかかき分けてあらわれたそれは、目的の場所を手にした携帯で確かめる。
場所とタクヤの確認をしてるのだろう。
そんな相手にいち早く気づいたタクヤは、相手が見つける前に歩き出す。
「……よう」
「え?! ……ああ!」
「遅かったな」
「まあ、色々と手間取りまして」
困り顔で笑みを浮かべる相手に、タクヤは「はいはい」と応じる。
初めての場所で目的地に向かうのは大変だろうというのは簡単に予想ができる。
会社に集められて今後の事を説明され、それからこっちに来て。
多少時間が遅れるのは仕方が無い。
それに、開拓地の交通の便はかなり悪い。
道に迷う事は無くても、遅れが出るのはしょうがないと思えた。
「じゃあ、行くぞ。
ここに立ってても邪魔になる」
「あ、うん」
そう言ってタクヤは歩き出す。
その背中に、
「ねえ、荷物ー」
「自分で持て」
ねだり声を容赦なく切り捨てる。
「けちー」
「うるせえ」
文句も容赦なく切り捨てる。
「それくらい自分で持て。
バギーまですぐだから」
「すぐなら持ってくれていいじゃん」
「自分の事は自分でやれ」
「もー」
後ろから上がる不平不満と文句と抗議を、タクヤは全くとりあう事無く進んでいく。
そんなやりとりをしながら、
(変わらねえな、こいつは)
などと思っていく。
数年ぶりの再会だが、違和感を全く感じる事も無かった。
「……もうちょっと成長してくれ」
主に精神面においてそう思った。
数年前までの記憶とあまり大差ないように思えた。
それについて本人は、
「背は伸びてるんだけどなー」
と反論する。
「ついでに体重もだろ」
「そりゃあ、成長期ですから」
「標準値を超えるくらいにか?」
「ちゃんと適正値におさまってますから」
そう言って胸をはる。
「……まあ、成長はしてるようだな」
「何処を見て言ってるのかな?」
「胸」
「……えっち」
「今更何を」
ため息を一つ。
「そんな見た目じゃなくて、中身の方が。
お前も就職したんだから」
「まあ、まだ未成年ですから」
現在十五歳の女子であるから間違ってない。
だが、タクヤは容赦はしなかった。
「未成年でも働くんだから、それなりの気構えをしておけ」
「はーい」
「そういうのをどうにかしろって言ってんの」
気のない返事にタクヤはデコピン(威力低)で応えた。
「でも、少しは変わったと思わない?」
わざとらしく額をおさえながら聞かれる。
「まあ、少しはな」
少しの部分を強調して返答する。
実際は少しどころではないが、認めるのもしゃくなのでそう口にする。
「多少背丈は伸びたし、横幅は大きく増えたし、足首は存在しないし。
顔は…………ごめん、お前にも人権はあるからこれ以上は言わん」
「……何気にっていうか、大分酷い事言ってるよね?」
「そんな事はないぞ」
嘘である。
背丈は最後に見た頃とさして変わらないのは確かだが、それでもこの年代の標準値にはなっている。
横幅についてはそれほど増えてはいない、全体的にほっそりしてるように見えるくらいだ。
もっともガリガリにやせてるというわけでもない。
足首については、完全に誇張である。
スカートから延びる靴下に包まれたその部分は、充分な細さをもっている。
顔立ちについては好みにもよるが、比較的ととのってる方ではなかろうか。
絶世の美女という事は無いが、好印象をもたれる程度には優れてる。
綺麗というよりは、愛嬌があるといわれるだろう。
総じていえば、やや細身で愛嬌のある可愛い子、と言えるだろうか。
タクヤもそれは認めている。
だが、素直に言って調子づかせるのもしゃくなので、本音とは別の事を口にした。
それは相手も分かってるので、
「酷いなー」
と笑いながら応じている。
「女の子は大切にしなくちゃ」
「それを本人が言うか?」
タクヤは呆れた調子でそう尋ねた。
年下の幼なじみ、雪代アマネとの再会はこんな調子であった。