3回目 不可解な開拓業務 3
「何なら、親父さんにもで聞いてみたらどうですか?」
班員の一人がタクヤにそう言った。
「親父に?」
「ええ。
班長よりは上なんですよね」
「まあ、一応な」
そう言いながら自分の父親の肩書きを思い出そうとする。
だが、思い出せるほど父の事を知ってるわけではない。
同じ会社で同じ業務についてるのは確かなのだが。
「確か主任か何かだったような……」
かなり曖昧な記憶からそんな役職名を拾い上げる。
それとて子供の頃に何かの拍子に聞いただけである。
実際にどんな立場で、どういう役職なのかは分からない。
確かなのは、
「俺らとそんな違いは無いわな」
という事である。
「主任ですか」
「もう何年も前だけどな」
だが、目立った功績がなければそうそう出世するものでもない。
せいぜい部署内での立場が上がるだけである。
会社組織全体の中では、そうそう出世出来るものではない。
いわゆる幹部、経営に携わる部分は特に
そんなところに加わる事が出来るのは、一部の人間だけである。
それも、入社段階で決まっている。
出自や出身校などなど。
そういった要素で決まっていく。
叩きあげでそこに入る者もいるにはいるが、それは極めて希な事である。
タクヤの父親はそこまで優秀な功績をあげたわけではない。
無能というわけではないが、ごく当たり前に業務をこなしているだけ……と聞いている。
それはそれで重宝するのだろうが、出世街道を怒濤の如く進んでいく事は無い。
「多分、今も主任何じゃないかな」
せいぜい、その上の係長。
さすがに課長にまではなってないはずである。
昇進したとしても、課長と係長の間あたりの何かであろうと思われた。
「まあ、お偉いさんってわけじゃないわな」
「なんだ」
「じゃあ、やっぱり分からないですかね」
「たぶんな。
こういう辞令を受け取る側であって、これを出す側じゃないよ」
立場としては、タクヤ達と同じである。
労使関係でいえば、使用者ではなく労働者の方である。
使う側ではなく、使われる方である。
そんな人間が、事の発端や真相などを知るわけがない。
「せいぜい、伝手をたどって裏事情を探るくらいじゃないかねえ……」
勤続年数に応じて増えた人脈を辿って、何かしら情報を引き出すのがせいぜいという事だ。
信憑性は大きく落ちるし、どれだけの情報が手に入るのかも分からない。
それで得られる情報は噂話と同等である。
そして、例え真相に触れていたとしても、それを確かめる術がない。
結局、詳しい事情は不明なままで終わる。
「仮に何か知ってても、教えるかどうかは分からないし」
「守秘義務がありますもんね」
「迂闊に漏らすような奴が、出世する事もないか」
「そういう事だ。
知ってても、知らぬ存ぜぬを通すさ。
それか、出鱈目を話すかだな」
何で別大陸の開拓にのりだすのかは、何もかも不明なままである。
確かめる唯一の手段は、
「……行けば分かるって事なんだろうな」
それしかなかった。
それでも、真相が分かるかどうかは不明なのだが。
その一端が垣間見えるくらいはするだろう。
仕事に振り回される立場の者達が、切ない内心をぼやいていく。
そうしてる間にも、会社は会社で動いていく。
決定された別大陸の開拓。
その為に各部署が動いていく。
必要な人員、必要な機材、必要な物資などなど。
それらを集めていく。
中心大陸すらもまだ手つかずなのに、と多くの者が思いつつ。