28回目 数は大事だけど、その数の意味が違うという事か
タクヤの願いは届かず、その後も人員の補充はなかった
新たにやって来るのは、基本的に事務などの内勤の者達がほとんど。
外回りといっても、それは営業として人の活動範囲を行き来するだけ。
物資輸送やモンスターへの対策として町の外に出るという意味での外回りではない。
それでも武装警備隊への補充はやって来てはいた。
だが、それもタクヤ達のような既にある部隊への補充人員というわけではない。
拡大した町の警備などにあてられていく。
その為に新設された班に組み込まれて。
増えた人員は班の増加にあてられていったのだ。
各班への補充ではなく。
そうまでして戦闘単位、投入できる部隊の増加、いや、水増しをしたいのか、と誰もが思った。
そして、ここに上層部の者がいて、そんな思いを抱くタクヤ達に本音で語るとしたら、
『その通りだ』
と答えただろう。
それほどまでに展開出来る部隊数が必要だった。
そうせねばならない程に、部隊の数が少なかった。
部隊として、その最小単位である班として機能するギリギリの人数しかいないものであっても。
それでも、使える部隊数が多ければ、作業をどうにかこなす事は出来るのだから。
その分、一人あたりの負担は増大するが。
そうして増えた新人達による部隊が、タクヤ達と交代していく。
出張に出るタクヤ達と入れ替わりに、新人達が業務に従事する事になる。
余計な事だが、任せて大丈夫なのか、という疑問を抱いてしまう。
何せ研修を終えたばかりの新人達だ。
一応、経験者が班を率いてるとは聞いてるが、それにしたって簡単に業務をこなせるとは思えない。
モンスターが出てくれば、誰だってそれなりに混乱する。
慌てず対処出来るようになるには慣れが必要だ。
新人にそれが出来るとは思えない。
「また何人か死ぬだろうな」
事実を口にする。
毎年何人かは確実に死傷者が出る。
死なないまでも再起不能な程の怪我は珍しくない。
数自体はそれほど多くはないが、確実に出てくる。
それが今年も発生するのだろうと思った。
「でも、俺らが気にする事じゃないですよ」
班員の一人がそう漏らす。
冷淡に聞こえるかもしれないが、間違ってはいない事である。
誰がどこで死のうが、そんな事考えてるわけにはいかない。
それが自分達の不利になるならともかく、直接の影響が無いなら気にする程でもない。
珍しくもない出来事について、あれこれ考えてても仕方がないのだ。
それこそ、毎年必ず発生する交通事故などと同じだ。
どこかで誰かが必ず死んでいる。
それが何時何処で、誰が対象になるのかは分からない。
理由や原因が何であれ、死ぬような出来事はどこかで発生する。
不慮の事故とモンスターとの戦闘を同列に扱って良いかは悩ましいが。
しかし、どう避けようのない事態という事ではおそらく同じようなものである。
それに巻き込まれてしまう事を一々気にしてもしょうがない。
何より、そんな事してる余裕もないのだから。
「それよりも、俺達のこれからですよ」
「いったいどこに飛ばされるんだか」
「まーだ場所は聞いてないんですか?」
班員から質問が上がってくる。
それについてはタクヤは、
「全然聞いてねえよ」
と答えた。
「本当に何も聞いてない。
直前になるまで秘密なんだろうよ」
今回の業務はそれ程までに機密性が高いものだった。
通常ならば、事前に何らかの形で情報が入るものなのだが。
今回はそれが一切ない。
本当に何も分からなかった。
何らかの業務がある、という事だけしか分かってない。
「物騒ですね」
「ああ、ここまで秘密にするくらいだからな」
それだけ外部に漏らすわけにはいかない事なのだろう。
社内であっても、限られた者しかしらないような仕事であるはずだ。
仕事内容も相応に厳しいものだと予想される。
「何事もなければいいけど」
それこそありえないだろうと思いつつ、タクヤは願いを口にした。




