25回目 新たな業務への指示
「まーた出張かよ」
タクヤは回ってきた辞令を見て嘆いた。
別の大陸にて警備業務に従事して、それなりの時間が経過している。
日々発展していく町並み(主にプレハブだが)を守るべく、モンスター相手に歩兵銃を振り回し続けてきた。
年が明け、そろそろ新年度になろうかという頃合いでもある。
それに合わせるかのように、新たな業務が舞い込んできていた。
色々と問題を感じさせるような文面で。
「これ、異動先がはっきりしてないのが怖いですね」
「まったくだ」
通常、移動なら移動で行き先や転属先などが示されるものである。
だが、今回の業務命令は、日時が指定と場所が指定されているだけ。
あとは、
『当日にその場に集合』
という事が記されているだけである。
ついでに言えば、身の回りの荷物などをまとめておくように、というお達しも添えてある。
これだけでも怪しさ満点だった。
「どうせ、またどこかに飛ばされるんでしょうけど」
班員もこういった指示が出た場合に何がどうなるかが分かってきている。
「ろくでもない所なんでしょうねえ」
「まともな場所である事は全く想像が出来ない」
「まあ、会社のやる事だし」
既に班員は諦めきった表情と心境になっている。
「しかも、荷物をまとめておけときた」
それが、今回の移動がかなりの遠出になる事を伝えてきている。
長期間にわたることも含めて。
でなければ荷物をまとめろなどという指示は出ないだろう。
「けど、荷物なんてありますかね?」
「個人の持ち物はほとんど向こうに置きっぱなしのような」
基本的に全員、一時的な出張扱いなので、会社の寮に荷物のほとんどは置いてある。
そして、それを取りにいく余裕も無かった。
一年近く別大陸に留まってるが、その間に海を渡って帰宅出来た事は無い。
そうするだけの余裕が無かったからだ。
大陸を渡る手段が船しかなく、往復するだけでもそれなりの日数を必要とする。
航空便もほとんど存在せず、事実上帰宅は不可能となっていた。
休暇がちゃんと与えられてるのだけが救いであった。
もっとも、休みと言っても遊びにいく場所も無いが。
生活に必要な施設は揃ってきてるが、娯楽はまだまだ揃っていない。
まだまだ生活に必要な部分を揃えるのが優先されてる段階だった。
「まあ、手荷物だけでもまとめておけって事なんじゃないのか?」
文面からそういう事なのだろうとは思った。
船にのって帰宅させてくれるとはとても思えない。
これまでの扱いを振り返ると、とてもそんな気を利かせるとは思えなかった。
「それにしても、どこに行くんですかねえ?」
「さあねえ」
肝心な部分が記載されてない辞令では、これから何をするのかなど分かるわけも無かった。
「どうせ、ろくでもない事にしかならねえんだろうけど」
「ですよね」
それだけは誰もが確信をもっていえた。