24回目 来訪者達の動きと、それへの対応
人類が四苦八苦している間にも、来訪者達の活動は進んでいく。
それらは出現したトンネル周辺を開拓しつつ、自分達の拠点を作っていく。
必要な資材はトンネルの向こう側から持ち込み、それをもとに最初の施設を作り出していった。
それ以後は、作り出した施設を中心にして活動を開始していく。
拠点……というよりは大きな一個の建物。
来訪者達の主な活動はそれの建設ではある。
だが、それだけをしてるというわけではなかった。
建設に従事してる者達よりは少ないが、それでも数多くの個体が周辺へと散っていった。
それらは周辺地域に満遍なく展開し、様子を探っていく。
その姿は人類側の観測衛星にもとらえられてはいた。
そして、それらがもたらした情報をもとに、来訪者達は次の段階へと移行していく。
施設の建設も終わり、そこが稼働を始めるのとほぼ同時に。
探索の結果判明した地下資源の鉱床を目指して。
そこを掘り起こし、資源を確保していく。
その動きに無駄はなく、掘り起こしていく場所からは確実に様々な鉱物が産出されていった。
採掘されていく資源は、大型の個体によって大量に施設へと運び込まれる。
稼働を開始した施設は、様々な資源の鉱石などを製錬し、加工していく。
そうして資源を作り出して、更に加工を重ねていく。
最終的にそれらは、新たな個体として施設から出ていく事になる。
その施設は工場だった。
材料を取り入れ、最終的な形に仕上げるまでの。
全ての行程や過程をこなす、完全な自動工場であった。
トンネルから出て来た個体が作り出し、同じ個体を量産し続けるための。
その目的のために作られ、次々と個体を作り出す。
そうして作られた個体が周辺に飛び散り、資源を採掘して新たな個体の誕生を助けていく。
増大していく個体は、やがて新たな施設の建造にとりかかっていく。
充分な数が揃い、充分な資材も蓄えた頃合いで。
木々を切り開き、土地を均し、施設が建造されていく。
そうして作られた施設が、再び新たな個体を作り出していく。
工場である施設がそうやって次々と増えていく
最初は一つだった工場が二つになる。
二つの工場は、新たにもう二つの工場を造る。
そして四つになった工場は、同じ数の向上を建造する。
二倍二倍と増えていく工場は、やがて地表を覆う一個の集合体になっていく。
地表がそうして建造物によって覆われ、元の姿を消していく。
何が目的でそうしてるのかは分からない。
だが、来訪者達はトンネル周辺を機械と構造物で覆っていく。
人類がこの異世界を開拓していくように。
来訪者達はそこを工業地帯に造り変えていった。
そうして工場を造っていく個体も、生身の生命体ではなかった。
金属で出来た体を持つそれらは、紛うことなく機械の体をもっていた。
縦の細長いその体には滑らかな表面をしており、はっきりと分かる起伏や凹凸がある。
それはまるで面長な人間の顔にように、あるいは頭や手足のない人間の胴体のようにも見えた。
底面(足?)の部分はスカートのように拡がり、空気を噴出して浮かび上がっている。
更に、背面(後部?)にある別の噴射口からの空気の噴出で移動をしている。
ホバークラフトのような機構で動くそれらは、人間らしさはもとより、生命体らしさが微塵も感じられなかった。
人類の言葉でいうならば、それはロボットと言うしかなかった。
工場建設や資源採掘などをしてる所を見ると、作業用工作機械──といったところだろうか。
黙々と仕事をこなすそれらは、ただひたすら工場建設に邁進していく。
そこに意志は全く感じる事が出来なかった。
そもそもとして、それらは自動的に行動してるのか?
それとも、誰かの指示や命令を受けて行動してるのか?
それすらも分からない。
自立、あるいは自律的な思考があるのかも不明であった。
だが、何を目的にしてるのかは不明であるが、施設を造り資源を採掘し、自分達と同じ姿の個体を新たに作り出していく。
それをたゆむことなく淀むことなく続けていく。
それが与えられた指示であるかのように。
あるいは生まれながらにして持つ本能であるかのように。
そうした姿は、蟻や蜂のような群体で行動する虫のようでもあった。
また、そうして作られた構造物は、機械の体を持つ来訪者達の巣のようにも感じられる。
無心に、考える事もなく動いていくその姿は、それに近いものがあった。
群の為に行動するだけの虫のように。
さもなくば、行動を入力された機械の姿そのものであった。
そうした動きを観測衛星で新地道の者達はとらえていた。
施設の規模が拡大していく事に驚愕をおぼえながら。
人類の開拓と同様、来訪者達も自分達の居場所を拡げてるのだろうと思いつつ。
その拡大速度には驚くしかなかった。
このままいけば短期間で相当な規模に拡大するだろうと。
単純に面積の拡大速度を見るなら、人類などよりもはるかに早い。
このまま放置してしまったら、来訪者があらわれた大陸はすぐにでも彼等の建造物で埋め尽くされるだろう。
果たしてそれで良いのか、と観測結果を見ていた者達は思った。
彼等が平和を求めてるのならば、それでもさほど問題は無い。
上手い具合に折り合いをつけていけるだろう。
しかし、そうでなかったらどうするのか?
……そんな疑問や懸念が渦巻いていく。
この結果をもとに、新地道は来訪者達との接触を大幅に前倒しする事とした。
まだ中継地点となる別大陸の基地も完成してないにも関わらず。
とにかく来訪者達との接触を目指して。
彼等の意志や意図を確認するために。
可能であるなら交渉して互いの領分を確定するために。
何よりも、そういった事が可能であるかを確かめるために。
もし相手が交渉の意志がなかったら。
平和な共存を望んでなかったら。
新地道、ひいては人類との対立や対決を是とするならば。
そして、人類をはじめとする全てを排除して自分らの領域を拡大するつもりならば。
それなりの対処を進めていかねばならない。
もし、来訪者が自分らの領域をひろげる事だけ考えてるならば、いずれは新地道と、そして人類とぶつかりあう。
そうなるかどうかを、出来るだけ早い段階で確かめておかねばならなかった。
この先どうするか、どうやって対応するかを決める為にも。
まずは相手の考えを把握せねばならなかった。