23回目 何を優先して何を後回しにするかは常に求めてられていく
こういった兵器を新地道は生産して配備していった。
新規設計とは言い難い、あくまで旧式兵器の改良である。
だが、新地道の能力と異世界の状況に照らし合わせれば、充分な能力をもった兵器群であった。
だが、作ったはいいが、どうしても少量生産に留まらざるえない。
現状ではこれらが大量に必要になるような事態には陥ってない。
海上艦船はともかく、陸と空では比較的軽装の兵器でも充分に対処出来てるからだ。
生産もそちらを優先する傾向があった。
兵士用の銃器と、軽装甲車などがそれである。
それも当然のことで、これらすらまだ充分な数が揃ってないのだ。
当面必要になるこれらを先に生産していくのは、当然の選択である。
「それは分かるんだけどな……」
一井物産の企画室では、それでもという思いがある。
「この先を考えると」
「もしかしたら、ってのもあるからな」
別の世界に通じるトンネルと、そこからやってきた者達。
それらとの間に衝突が発生してしまったら。
より強力な兵器を揃えておいた方が事を有利に展開出来る。
そういう思いがあるからこそ、戦車や戦闘機をもっと増産させたかった。
それらを扱える者達の教育も含めて。
また、艦船ももう少し増やしてもらいたいとも思っていた。
今後も海上輸送が増えるのは確実だし、その護衛はどうしても必要なのだから。
別大陸に運び込まねばならない資材や人員はまだまだ必要だ。
また、開拓や開発が進み、別大陸での生産品が増えれば交易も始まるだろう。
そうした場合にはやはり海運が増大する。
それを保つためにも、海のモンスターを撃退出来る海上戦力が必要だった。
「その為にも資源の採掘と精錬工場が必要なのも分かるんだけどね」
「増産するにもそこからだしな」
「それは分かるんだけどなあ……」
それでも、である。
現状の生産速度では、必要な数の戦車や戦闘機を揃える事が出来るか不安になる。
それ以外の兵器もだ。
長い目で見れば、そういった配分が適切であるのは確かだ。
強力で製造に手間と資源が必要なものより、手軽に作れる兵器の方が必要だと。
開拓にはそうした兵器で充分だし、それ以上は必要がない。
12.7ミリ重機関銃と無反動砲で十分対処可能なモンスターに、戦車は無用の長物である。
それらを作るくらいならば、その分の資源や資材を開拓にまわして産出量を増やした方が良い。
そうすれば、戦車や戦闘機を作る余裕も出てくるのだから。
だが、そうなる前に最悪の事態が発生してしまったらどうするのか?
それが問題であった。
相手の動きが想定以上に早く、なおかつかなりの侵攻能力を持っていたら。
その場合、現有兵力で対処出来るかどうか。
その不安が、今の状況への危惧を増大させていく。
「心配しすぎてもどうしようもないけど」
だとしても、この先についての不安を抱いてしまう。
先を考えて事業展開を構築する企画部だけに、そういった事態も考慮せねばならなかった。
その上で対策を考え、方策を練り上げていかねばならない。
「さて、何が出来るんだか」
今日も今日とて、終わりが見えない企画会議が続いていく。
その後も、特に有効な手段が見つかる事もなく。
現在の手持ちを如何に配分するか、何をどこに用いるのかを探っていく事になる。
その中で、最も有効と思えるものへの配分を増やし、それ以外は事業や業務は極力控える事を決めていく。
それに合わせて各事業部を縮小再編する事も考えられていった。
合わせて、関連企業や下請けなどへの働きかけも考えられていく。
その動きは新地道に展開する各企業と、そこで働く多くの者達に影響する。
それが分かってるだけに、企画部の者達も慎重になっていく。
同時に、やらねばならない事であるならば、例えどれだけの被害が出ようとも実行する冷徹さも発揮していく。
何かを躊躇う事で将来にいらぬ負担を強いる事になる事もあるのだ。
それならば、今ここで痛みを負う事も覚悟せねばならない。
巡り巡ってそれが、未来においてよりよい結果になるならば。
その為に縮小させるべき部分は縮小する。
閉鎖するべきものは閉鎖する。
そして、新たに始める事業に、縮小と閉鎖によって生まれた余裕を注ぎ込んでいく。
もちろん、継続すべきものは今後も継続させていく。
事業の継続と発展、そしてせねばならない事と目的の達成のために。
刻一刻と変化していく状況の中で、企画部はこれからを見据えて頭を使っていく。