20回目 異世界で配備された戦車
最も初期に生産されたのは戦車である。
異世界において最も懸念されたのは地上のモンスターであるからだ。
これに対抗する為に、戦闘車両が求められるのは当然の成り行きであろう。
その中でも最強の攻撃力と最高の防御力を持つのは戦車である。
正直、モンスターを相手にするならば過大な戦力ではある。
だが、万が一やもしもを考えて、一応生産と配備がなされる事となった。
この時、再生産の対象となったのが、74式戦車である。
戦後第二世代の戦車である74式戦車は、地球においては既に旧式となっている。
これを超える第三世代、第四世代の戦車も出現している。
同じ世代の戦車を配備してる中小国相手ならともかく、先進国の戦車相手に戦うのは難しい。
しかし、異世界においては充分過ぎる性能を持っている。
105ミリの戦車砲はドラゴンやベヒーモスなどを一撃で粉砕する。
それどころか、体を簡単に貫通し、その先までも砲弾は飛んでいく。
もしモンスターが密集していたら、一発で何匹かの巨大モンスターをまとめて葬る事も出来る。
有効射程も2000メートル以上あり、遠距離からモンスターを撃破する事も可能だ。
しかもこの有効射程距離は、地球の戦車相手の話である。
戦車よりも脆弱な装甲(というか分厚い皮膚や硬い鱗)しかもたない大型モンスターなど、更に遠距離からでも撃ち抜ける。
装甲も、同程度の戦車砲弾を弾く事を考えられている。
74式戦車の装甲性能は、装甲の材質や厚みだけではなく砲弾を逸らすための傾斜角度も含めたものである。
単純に装甲の硬さだけを考慮するわけにはいかない。
それでも、戦車砲弾などより威力の劣るドラゴンの火炎放射(いわゆる、ドラゴンブレス)など問題にもしない。
ベヒーモスの巨体による体当たりや、巨大な体重を用いた踏みつけなどはさすがに脅威になりえるが。
しかし、それらも一撃で74式戦車を破壊するには至らない。
このモンスターに劣る中型や小型のモンスターなど、それこそ相手にもならない。
少なくとも、74式戦車の装甲を貫くようなモンスターなど、確認される範囲では全く存在しない。
地球では旧式である74式戦車であるが、それでもこれだけの能力を保有している。
配備すれば、それだけでモンスターの脅威をかなり抑え込む事が出来る。
これを更に現代に合わせた形で、また異世界の状況に合わせた改善や改良もされていった。
旧式すぎる部分の改善や更新も含めて。
まず、エンジンが新しいものに変わった。
現在ならば、同程度の大きさでより高出力を出せる。
あるいは、同じ馬力ならば、大きさを縮小出来る。
これによりエンジンは730馬力から830馬力に向上したものを搭載。
トランスミッションなども新たにして、最高速度が増した。
本来なら時速53キロだった最高速度は、63キロまで向上している。
足回りもこれに合わせて改修が為されていった。
砲塔部分も、丸いものから現代的な四角角張ったものに変わる。
もともとは砲弾を受け流す事を考えて、丸みをおびた、あるいは流線型の形をしていたのだが。
異世界においてはその必要性が無い。
砲弾を飛ばしてくるようなモンスターがいないからだ。
遠距離攻撃となると、ドラゴンの火炎放射くらいであるが、それも現状の装甲材質であれば充分に防げる。
ならば、砲塔内部に容積を増やすために箱形にした方が良い、という結論に落ち着いた。
これにより、外付けだった暗視装置などを、砲塔の内部に設置する事が出来るようになった。
また、砲塔内部に設置していた射撃装置なども、多少大型にしても問題がなくなった。
更に砲塔の大型化、内部容量の増大により、様々な機器も組み込める余裕が出来た。
これを利用して、砲弾の再装填装置と射撃安定装置などが組み込まれた。
本来必要だった装填要員を減らし、必要な人数を減少させていった。
また、射撃安定装置は移動しながらの射撃、いわゆる行進間射撃を可能とした。
さすがにその命中精度は後継の90式戦車や10式戦車には劣る。
もともと備え付けられてなかったものを後付したのもあって、こればかりはどうしようもない。
それでも、命中が期待出来ない状態に比べれば大きな差を持つ事になった。
ただし、第三世代以降の戦車のように、複合装甲は用いられてない。
さすがにその材質などについては軍事機密になるので、どうしようもなかった。
それでも、異世界の状態を考えれば、装甲は現状でも問題は無い。
将来はどうなるか分からないが、当面は現状でも差し障りないと判断されていった。
もしもの場合も考えて、簡単な増加装甲を装着出来るように、車体や砲塔に取り付け金具も装着されている。
重量は増してしまうが、これによって後付で簡単に装甲を追加出来るようにはしていった。
これらの改修・改良は最初から全部なされていったわけではない。
最初は74式戦車の最終型をほぼそのまま生産し、その後改良出来る部分を次々に盛り込んでいった。
この結果、74式戦車は異世界にて独自の進化を遂げるようになる。
そして、改良型の最新型に至り、戦車の名前も変わっていく。
最初期に配備されたものを1号戦車と呼び、その後改良されて配備されたものを2号戦車。
最新型であり、現行の配備機種を3号戦車と呼ぶようになった。