176回目 巨人達の終焉 8
それをかすかに伝わってくる破裂音(銃声)で察した弓持ちは、大きなため息を吐いた。
一人くらいはどうにかなるだろうと思っていたが。
それすらも甘い考えだったようだ。
伝わってくる気配で、仲間が全員倒れたのが分かる。
彼も持つ加護、あるいは狩りに特化した一族が培ってきた感覚が教えてくれる。
(ならば……)
何が出来るのか考える。
残るは自分一人。
周囲を囲む敵から逃れるのは不可能。
せめて一矢報いたいが、その為にどうしたら良いのか。
悩んでる時間もない。
正面から向かってくる四角い箱は、もう目の前だ。
それらから逃れる事も難しい。
(だが、このままでは終わらん)
意地があった。
巨人として、狩人として、それなりの勲功を残してきた者として。
何も出来ずに死ぬわけにはいかなかった。
そう考えた弓持ちの巨人は、建物の陰を伝って相手を狙う事にした。
しかし、それより早く装甲車の機関砲が弓持ちを襲っていく。
もう弓持ちの巨人は十分に射程内に入っていた。
装甲車はそれを狙って砲弾を吐き出していく。
照準の中に捉えられた巨人に避ける術は無い。
高精度の命中率を誇る火気管制装置は、狙い通りに弓持ちの巨人に攻撃を当てていった。
連続して吐き出されたそれは、全弾が弓持ちの巨人に当たった。
この居住地の巨人はこうして全滅していった。
『やったぞ』
装甲車からの通信。
『デカいのは倒した』
聞いてた者は一様に安堵する。
これで戦闘は無いはずである。
『了解。
そのまま突入し、内部を制圧しろ』
司令所からの指示が飛んでくる。
見える所にいる敵は倒したが、それで終わりというわけではない。
まだ中に隠れてる者がいるかもしれない。
それを確かめるためにも、居住地の内部に入らねばならない。
まだまだ危険な作業は終わらない。
『それと、中には人がいるはずだ。
俺たちと同じくらいの大きさのな』
通信はまだ続く。
『可能なら保護してくれ。
襲ってきたならその限りではないが。
状況に応じて適切に処理をしろ』
はっきりしない指示である。
どの程度なら保護と処理の境目が曖昧だ。
だが、適切に処理をしろというのだから、そこは各自の自由という事なのだろう。
こうしておかないと、指示が細かくなりすぎるという問題がある。
それが分かってるから、
「了解」
タクミ達は素直にそう応えていった。
居住地内部に踏み込んだタクミ達は、その大きさに驚いていく。
姿形は衛星や航空偵察によってある程度はとらえてはいた。
なのだが、実際にその大きさを見ると迫力がある。
何より、実際にそこで生活をしていたというのが大きい。
通常の人間を遙かに超える存在。
それが寝起きしていた場所だ。
作り物にはない現実感があった。
その中を進み、巨人達と共にいた者達の所へと向かう。
目的の者達は居住地の一角にまとめられていた。
巨人達とは違い、狭い場所に閉じ込められるように。
実際、それは牢屋といっても差し支えないような場所だった。
格子状の仕切りで外と区切られた部屋に、多数の人間が放り込まれている。
男女問わずに。
それだけで扱いの雑さがよく分かる。
そのほか、一人分の寝る場所すら確保できないだとか。
ぼろきれのような服しかないとか。
風呂もろくに入れられてないようで衛生的に問題があるとか。
あげればきりが無いほどの問題点が山積みだった。
そうした状態におかれていた者達を解放し、外に出してやる。
最初は警戒していたので、連れ出すまで時間がかかったが。