173回目 巨人達の終焉 5
「何を言って……」
「俺が援護する。
あいつらが何をしてるか分からんが、何もなしで突破するのは難しいだろう」
「いや、だけど」
「奴らに近づいた途端に、あいつらは倒れた」
先ほどの事を思い出させていく。
「何をしてるか分からんが、近づいたら危険みたいだ。
なら、そうならないよう、俺が遠くから攻撃する」
確かにそれも手段の一つだろう。
そもそも遠距離攻撃による支援は戦闘の基本だ。
それがあれば心強い。
しかし、そうなると疑問がまた生まれる。
「だが、お前はどうする」
援護はありがたいが、それをしてる弓持ちはどうするのか。
どうしても居住地に残る事になる。
それがどれほど危険であるか。
不可解な攻撃を仕掛けてくる敵を前に、巨人達はその危険性を否応なく感じ取っていた。
それは敵中突破よりもはるかに危険だと思われた。
外に出ての突破は敵の攻撃にさらされる可能性がある。
状況からみて、生き残る確率は低いだろう。
だが、それでも生き残る可能性がある。
しかし、残って援護すればどうなるか。
敵が確実に殺到してくる。
そうなれば、あの正体不明の攻撃によって確実に死ぬだろう。
ほぼ確実に。
それでも弓持ちは、
「むろん、ここに残る」
平然と答えた。
「少しくらい無茶をせんといかんだろ」
その声に、巨人達はふるえた。
恐怖や怒りや諦めのせいではない。
確かな覚悟に触れ、否応なく感化された為に。
この時巨人達は、無意識に感じていた恐れを忘れた。
そして、確かな勇気と意義を見いだした。
絶対にこの場から生きて戻り、事の次第を伝えねばと。
目の前の男に報いるためにも。
「何を話してんだかねえ」
偵察用ドローンから流れてくる映像。
それを見て、巨人達を取り囲む兵員達はあれこれ想像していく。
「作戦会議じゃないか」
「逃げる算段だろ」
「籠城戦かも」
「さすがに慌ててるんだろうな」
「仲間があんだけ倒れたからなあ」
好き勝手な事を言っている。
そこには余裕があった。
それもそうだろう。
一人の損失も損害も負傷もなく相手を圧倒したのだ。
自分たちが有利だというのは既に実証されている。
接近されたら危険だが、されなければ問題は無い。
そして、近づく前に敵は倒す事が出来る。
「銃は偉大だ」
あらためてその事実を痛感する。
そんな彼らの目に、ドローンから流れてくる新たな映像が見える。
弓を構えた巨人だ。
その矢が撮影してるドローンに向けられている。
「なんだ?」
「え?」
「おいおい……!」
最初は混乱した。
意味が分かると慌てた。
そんな彼らの見てる前で、巨人は引き絞った弓から手を離した。
矢が放たれる。
それはドローンに向かってまっすぐに飛び。
映像を途絶えさせた。
とはいえドローンは一つだけではない。
いくつも浮かんでおり、様々な角度から撮影をしている。
すぐに状況が分からなくなるという事は無い。
それでも死角は生まれるし、それを補うのもすぐにというわけにはいかない。
慌てて新たなドローンを飛ばそうとするも、そうしてる間に弓持ちの巨人に次々撃墜されていく。
「化け物だな」
一機、また一機と撃墜されていくドローン。
そのたびに黒くなっていく画面を見ながら、指揮所にいた通信士が嘆息する。
「回復は出来るか?」
「出来ますが、すぐには無理ですよ」
尋ねてきた上司に、通信士は事実をありのままに伝える。
それは上司も分かっているのだが、あえて事実確認をしていく。
「出来るだけ急いで回復させよう。
その間、少しでも状況を把握出来るよう他の画面で監視してくれ」
「分かってますって」
答えながら通信士は、まだ生きてる画面に目を向ける。
空を飛んでる偵察ドローンは落とされたが、地上に設置したカメラは生きている。
そこから入る映像を見て、出来る限りの事はしていく。
ただ、
「これもいつまで保ちますかね」
それが心配だった。
何せ、飛んでるドローンを弓矢で落とす奴だ。
動かない地上のカメラなど的にもならないだろう。
「見つからなければいいが」
上司もそれが心配だった。
こればかりは相手次第なのでどうにもならない。