172回目 巨人達の終焉 4
「落ち着け」
一人、弓を構える巨人が周りをなだめる。
「慌てても意味がない。
それよりも、やれる事をやろう」
もっともな話だ。
無理をしてもしょうがない、やれる事に全力を尽くすべきである。
今この状況で何をすれば良いのかという問題はあるが。
「どうしろと?!」
一人が激高する。
「あんな訳の分からない事が起こって。
どうすりゃいいってんだ!」
「分からん」
答えは平坦で素っ気なく放たれた。
「俺もどうすればいいか分からん。
だが、慌てても意味は無いだろ」
「だからって!}
「それよりも、まずは連絡をとろう。
急いで国へ向かうんだ。
ここで起こった事を伝えに」
言われて大半の者が『はっ』と我を取り戻す。
確かにそうだ。
本国への連絡。
まずはそれが大事と思い出す。
緊急時には何はなくとも連絡を。
起こった出来事を正確に伝える事。
それは鉄則である。
でなければ、何が起こってるか分からず、対応が遅れてしまう。
取り返しのつかない事になってしまう事もある。
だから、まずは連絡を。
その事を巨人達は言われるまで忘れていた。
「だが、誰が行く」
「全員で行った方がいいだろう」
問いかけに弓を持つ巨人は、これまたあっさりと答えた。
「既に分かってると思うが、この周りはあの小さき者達に囲まれてる。
そこを突破するとなると、一人や二人では難しいかもしれん」
「そんな事────!」
「不可思議な手を使って我らを倒してるのを忘れたか?」
「…………それは」
「何が起こってるかしらんが、あの『パン』とか言う音。
それが鳴ると同時に仲間が倒れていった。
おそらく、何かをしてるのだろう。
そして、周りを取り囲んでる小さき者はそれが全員出来るのかもしれない。
だとすれば、包囲してるあいつらを突破するのも難しい」
「…………確かに」
「そうだな」
弓持ちの言うことを他の巨人も理解していく。
「ならば、全員で突破するべきだ。
それでどれくらい報告に戻れるか分からんが。
一人くらいならどうにかなるだろう」
それを聞いた巨人達は顔をしかめる。
いくらなんでも、一人という事は無いだろうと。
残った全員で駆け抜ければ、かなりの人数が助かるのではないかと。
だが、そんな気持ちを見透かしたのか、弓持ちは言葉を重ねる。
「楽観など捨てろ」
「…………」
「先ほどのを見ただろ。
敵に向かっていった全員が死んだ。
全員がだ。
こんな事、今まであったか?」
無い。
こんな事今まで無かった。
少なくとも小さき者を相手に、自分たちが一度に大量に倒れるなんて事はなかった。
「相手を侮るな。
どんな手段をとってるか分からんが、あいつらは俺たちを倒すだけの力がある。
それを持ってる奴らの中を突破するんだ。
簡単にはいかん」
言われて巨人達は、あらためて状況を把握する。
自分たちがとてつもなく危険な状況にあると。
「だから行け。
敵を突破してこの事を伝えに」
「……分かった」
促されるままに巨人達は頷く。
確かに楽観は出来ない。
少しでも成功率をあげるために、なるべく多くの者達で突破した方がいい。
そう考え始めた彼らに、
「俺が援護する」
弓持ちは決然と言い放つ。
巨人達は『えっ』と驚いた顔をする。




