171回目 巨人達の終焉 3
第二陣として出発する巨人達は、今度は慎重だった。
木々の陰を伝って進んでいく。
また、事前に加護を使っていく。
攻撃の威力をあげる加護。
攻撃をはじく加護。
感覚を鋭くして様々な事を察知する加護。
身軽になって様々な動きが出来るようになる加護。
それらが巨人達を強化していく。
それは彼らの家族や一族に伝わるものだった。
先祖などの魂が子孫である彼らを守り導くものである。
その加護を与えられる事で、彼らの能力は増大する。
ただ、どんな効能があるのかは家族や一族によって違う。
得意とするものはそれぞれ違うのだ。
また、親族にしか伝える事が出来ないので、他の家族や一族が学ぶという事も出来ない。
画一化が出来ないのが難点と言えば難点である。
しかしそれも、まとまって集団となる事で解決する事が出来る。
それぞれが己の得意とする分野で他の者を助ける。
そういった助け合いが彼らを部隊として機能させていく。
今、一井物産戦闘部隊である地球人を前にしてもそれは同じ。
未知なる脅威を前にしてるからこそ、彼らは一致団結して事にあたっていく。
そうした場合の彼らの能力は、とてつもなく高く跳ね上がる。
単純に人数分の力が合計されるのではない。
二倍三倍に高まり、予想も出来ないほどの成果をもたらしていく。
そうする事で巨人達は、元の世界を制圧していった。
その事実が彼らに自信を与えている。
こうなれば敵はないと。
その自信も、一井物産戦闘部隊の銃弾に撃ち抜かれていく。
飛び出した巨人達は、ある者は狙撃されていく。
ある者は身を隠した木々ごと機関砲に撃ち抜かれていく。
ある者は対物ロケット砲弾や迫撃砲弾によって吹き飛ばされていく。
あるいは、接近した兵士達の銃で蜂の巣にされていく。
彼らの加護は確かに強力だった。
攻撃力をあげる加護を使えば、地面に陥没を作るほどの打撃力を持つ事が出来る。
体を守る加護を用いれば、この異世界にいるドラゴンやベヒーモスの攻撃すらはじき返す守りを手に入れる事が出来る。
俊敏さの加護を用いれば、崖を駆け上り、木々を伝って飛び回る事すら出来る。
感覚を強化する加護ならば、どこに何がどれだけ潜んでるのかも手に取るように分かる。
しかし、そのような加護を用いても、彼らが一井物産戦闘部隊を倒すには至らない。
どこ誰が潜んでるのかが分かっても意味が無い。
近づく前に倒されてしまうのだから。
俊敏さが上がっても意味がない。
装甲車に搭載されてる射撃管制装置は、飛び跳ねる巨人の動きをとらえている。
そこから想定される未来位置を表示するのだ。
動きをとらえるのは造作もない。
たとえ多少外れたとしても、機関砲弾や銃弾は連射されている。
そのうちの何発かは確実に当たるし、当たれば巨人を倒す事が出来る。
防御力の向上も意味がない。
確かにモンスターの攻撃をものともしない程の強靱さは得られるだろう。
だが、それは銃弾をはじくほどではない。
機関砲弾など無理や無茶という言葉ですら生ぬるい。
対戦車・対物ロケット弾や迫撃砲弾など、食らえばひとたまりも無い。
せいぜい、即死が致命傷に変わるくらいだろう。
それも、直撃から数秒ほど息が続くという程度の。
攻撃力の向上も同じだ。
当たれば確かにそれなりの損害を与えるだろう。
当たればだ。
当たるほど接近する事も出来ないのに威力が上がっても意味がない。
その威力を発揮する前に蜂の巣にされて終わりである。
確かに巨人達には加護という特別な力がある。
それは元々優れていた巨人の力を更に向上させるだろう。
だが、どれほど上昇しても、それはあくまで生身の強化で終わる。
人間の能力を遙かに超える兵器の前には無力だ。
居住地から出て、呆気なく倒れる巨人達。
それは、念のための居残りだった者達を戦慄させていく。
「あれ何だ?」
「どうなってる」
「嘘だ、こんなの嘘だ」
目の前の現実を受け入れられない。
受け入れても理解が追いつかない。
心がどうしても乱れていく。
そんな彼らの中で、ただ一人冷静さを保ってる者がいた。