17回目 別大陸開発に至る理由 5
「向こうの動きがそれほどでもないのがありがたいが」
観測衛星による撮影で、来訪者達の動きはある程度把握出来ている。
何をやってるのかはまだはっきりしないが、どうも拠点のようなものを建設してるようではあった。
来訪者が出て来たトンネル周辺が切り開かれ、そこに何かが作られている。
それが何であるのかはまだ分からないが、おそらくは活動拠点なのだろうとは考えられていた。
あくまで人類側の推測ではあるが。
「この調子なら、それほど早く拡大する事もないだろうが」
目的が不明な建物の建造速度はそれほどでもない。
今後もこのままでいるなら、それほど急激な勢力拡大はなさそうではあった。
それでも、
「油断は出来ないけどな」
誰も楽観は出来なかった。
問題がないと思えるのは、あくまで現状のままで推移した場合である。
この先それが変わっていく可能性もある。
そうなった場合、対処が出来るかどうか。
それは誰にも分からなかった。
「相手の情報があればなあ……」
何も分からないから何もしようがない。
そこにいるのは分かってるにも関わらず、次の行動が読めない。
今やってる事ですら、その詳細は不明だ。
だからこそ不安にもなる。
出来ればそれを解消したいものである。
その為にも、彼等が何をしてるのか、何を求めてるのか、何を考えてるのかを知らねばならない。
とにもかくにも接触をせねばならない。
相手と対面せねば意志の疎通もままならないのだから。
その為の大陸開拓と開発である。
どうにかして成功させねばならない。
それも出来るだけ早く。
「何にしても無理があるよな」
「まったくだ」
しなければならない事の大きさに、一同はため息を吐いていく。
ただ会いにいくだけなのに、大規模な設備を作らねばならないのだから。
それでも、事を放置しておくよりは良いと判断しての事だ。
だからこそ、無理をしてでも、少しでも前倒しして作業を進めている。
相手との接触を少しででも早くするために。
相手の意図を探り、出来るなら穏便な形での関係を作るために。
何より、平和な関係になれなかった場合。
相手の体制がととのう前に、決着をつけられるように。
その為にも、自分達の体制をととのえておかねばならなかった。
「けどなあ……」
やらなくてはいけない。
それは分かっているのだが。
事の大きさにあらためて頭を抱えてしまう。
全てを順調に進めたとしても、どうしても数年がかりになってしまう。
中継地の大陸ですらも、必要な設備を作るとなればそれだけかかる。
目的地の大陸に作る拠点となる、いつ完成するのかも分からない。
とりあえず、目的地に発着が出来る港や空港だけでも作れれば良いのだが。
それすらもおぼつかない。
もとより、港や空港を作るとなれば、やはりそれなりの資源や工事が必要になる。
簡単にできるものではない。
「運搬船もまだまだ足りないし」
「それよりもまず、この大陸での資源確保だって必要だぞ」
とにかく全てが足りないづくしである。
開拓開発しようにも、その為の資源すら需要をぎりぎり満たす程度なのだから。
何かの拍子にどこかが滞れば、日常生活にすら影響を出しかねない。
一応、多少の備蓄はあるのだが、それを用いても今の段階では一ヶ月ほど現状を保たせる程度である。
生産した資源は、備蓄に回すよりも更なる生産体制の増強に用いられていくからだ。
そうしないと増え続ける需要を賄う事が出来ない。
「兵器の生産すらままならないくらいだからな」
「そっちの方はどうなってんだ?」
「一応、増産する事にはなってるけど。
工場を造るだけで一苦労だ」
「そんだけの余裕があるのか?」
「無いねえ。
正直、この調子じゃ生産するだけでもきついよ」
万が一の場合も考えて、こういったものの増強も考えられている。
しかし、これらも簡単にできるものではなかった。
日本本国は新地道の武装を公式には認めてない。
現状、新地道の武装は黙認されてるだけである。
つまりは違法状態を見逃してるだけである。
その気になれば、すぐさま取り締まる事が出来る。
あくまで法律上での話で、実際にそれを実行するだけの能力があるかは別だが。
それでも、日本は正式に新地道の武装を認めてない。
当然ながら、新地道への武器や兵器の提供などするわけがなかった。
諸外国からの武器の輸入も出来ない。
まず、諸外国の政府が簡単に武器輸出を認めないだろう。
認めたとしても、日本がそれを阻む。
仮に武器を買い付けたとしても、それが日本に入った瞬間に法律に従い没収される。
日本を間に通すしかない新地道なので、これを避ける事は出来なかった。
まして新地道が求めてる武器や兵器というのは、個人が携帯出来る程度のものではない。
戦闘用車輌や戦闘機、果ては軍艦である。
さすがにこれらを簡単に融通するものはいないだろう。
日本の国民世論も、さすがにこれには難色を示す可能性が高い。
新地道の武装は仕方が無いと認めていてもだ。
だからこそ新地道は必要な武器や兵器も生産しなくてはならない。
なのだが、これがやはり暗礁に乗り上げてるような状態であった。
兵器そのものの開発などは進んでいる。
だが、生産するための設備がないのだ。
試作機などは出来上がってるが、それだけでは意味がない。
増産するためにも、工場などの生産設備が必要になのだから。
これを用意出来ない、するだけの余裕がないのが、今の新地道の泣き所だった。
「折角作ったのにな……」
未だ満足に生産も出来ない兵器の数々。
それらを思って企画部の者達は、やはりため息を吐く。
もう何度も繰り返してるにも関わらず。