166回目 巨人対策 5
一応、名目上出撃はする。
だが、その歩みは遅々として進まず、頻繁に休憩をとっていく。
進むにしても、当初の目的地とは別に、大きく迂回して巨人の居留地を囲うように動く。
決して攻撃を仕掛けたりしない。
巨人との接触がないのも幸いだった。
そうなってたら、予防の為に巨人を攻撃していただろう。
これは彼らのやる気のなさだけをあらわしてるのではない。
装甲車が到着するまでの間、こうして時間を潰してるのである。
命令が出てる以上従わねばならない。
だから一応は従っている。
ただし、身を守り、敵への反撃手段にもなる装甲車が到着するまでは何もしない。
それが現地部隊の者達が示した限界ギリギリの妥協だった。
あとで報復をするにしてもだ。
いや、報復をするつもりなら、こんな所で指示に従ってなどいない。
邪魔する全てを排除して、こんな事をさせてる連中をつるし上げにいく。
ふざけた指示を出す者を許すほど、新地道の住人は甘くない。
それをしないだけ、まだこの場に居る者達は辛抱強いと言えた。
まだそれほど怒ってはいないと言える。
それでも怒りが無くなったわけではない。
だが、とりあえずは目の前の問題を片付ける事を優先した。
今、この時は。
それが功を奏してると言える。
時間をかけて巨人達の居住地を包囲する形をとっているのだ。
当然ながら観測なども行っている。
設置しきれなかった機材を持ち込んで。
結果として、巨人の監視や偵察の継続をしてる事になる。
それは一井物産にとって大きな収穫となっていく。
だからこそ一井物産の上層部も黙認していた。
指示や命令を聞かない現地の者達を。
彼らは彼らで必要だから命令や指示を出している。
少なくとも彼ら自身はそう考えていた。
それに従わない者達には当然腹を立てる。
上層部からすれば我慢してるのは自分たちの方だと考えている。
自分たちが展望を読みを誤った事を棚に上げて。
それが色々な無理をしなくてはならない理由である。
本来ならする必要の無い事なのに。
それを現地に押しつけてる彼らに、現地部隊の方が怒り心頭になっている。
それでも上層部は、現地部隊の勝手な行動を黙認するという立場をとっている。
その考えこそが、不要な争いを発生させる愚行であると理解しつつも。
分からないでやってる。
気づかなかったから。
そんなの嘘っぱちに決まっている。
気づかないほど愚劣な者が上層部にいられるわけがない。
それでもこんな言い訳をして責任を回避しようとする。
こうして指導部と現場の間に乖離が発生していく。
一井物産も例外ではいられなかった。
これは組織が大きくなればなるほど大きくなる問題なのだろう。
いや、どんな小さな組織でも、たとえそれが二人三人といったものでも。
こういった問題は発生する。
それが一井物産ではより大規模で出てきてるだけである。
それでも結果として現地部隊は装甲車の到着を待って行動を開始する。
多少の遅れはあっても、それは上層部の求めるものにも合致する。
いがみ合い、衝突や摩擦を発生させながらも、不思議とこの集団は組織だった動きを見せていた。
今この瞬間だけは。