165回目 巨人対策 4
それでも、せめて装甲車を送り込もうという者達はいた。
ありがたい事にその要望は通り、巨人達のいる地域に送り込まれる。
最悪なのは、その到着を待つことなく攻撃指示が飛んでる事だった。
「到着するまでに少しでも倒しておけ。
これ以上増える前に」
それが突入を急ぐ上層部の考えだった。
今少し待つようにと進言した者達への返事でもある。
この呆れた言動は即座に前線部隊の者達に伝えられ、怒りを買う事になる。
「だったら最初からもってこい!」
「調査ばっかさせやがって」
「こうなるのは予想してだろうが」
「なんで先に装甲車をもってこない」
誰もがそう叫んでいた。
それらに間違いは一切無い。
もともと巨人との衝突は考えられていた事だ。
ならば、事前にそれなりの戦力を用意しておくべきである。
それを怠り、調査だけに時間を費やし、これはまずいと思った途端に総攻撃の指示。
頭がおかしいのかと思われても仕方がないだろう。
事前に分かってる、想定してるのにその為の準備をしてないのだから。
そして、慌ててとりかかるという愚劣さ。
夏休み終了直前に宿題に手をつけるようなものだ。
子供ならともかく、いい年齢をした大人のやる事とは思いたくもない。
しかし、そんな事が現実に起こってしまっている。
それで命を危険にさらすのは、常に最前線の者達だ。
「ふざけんな!」
「ぶっ殺してやる!」
物騒な声があがる。
何より恐ろしいのは、その叫び声が現実になる可能性がある事だ。
そうやって問題のある連中を淘汰してきたのが、この異世界における新地道の歴史である。
兵士を使い捨てにするような者達は、それこそ命をもって償う事になる。
それは上層部も分かってるはずであった。
だが、比較的安全な立場に長くいると、感覚が鈍っていく。
『これくらいは大丈夫だろう、これくらいは分かってくれるだろう』
そんな考えが浮かんでくる。
当たり前だが、そんな事は全くない。
自分がどう思おうと勝手だが、それに他の者が付き合う義務や義理はない。
馬鹿げた事をやれば、それが命や損失に関わることならば誰も納得はしない。
死んで名誉になる武士ならいざしらず、兵員達は武士ではない。
死んで花実が咲くとは全く思わず、生きてこの世を満喫する事を優先している。
そんな当たり前の者達に、死の美学など求める方がどうかしている。
今回、下手をうった一井物産の上層部は、現場からそれなりの恨みを買う事になる。
それがどんな結果につながるのかは、本人が身をもってしる事になるだろう。
だが、それはそれとして、命令は命令である。
業務として服さねばならない事だ。
なので、兵員達はいやいやながらも敵地に向かっていく。
…………わけもない。