163回目 巨人対策 2
「……そのせいで俺たちが苦労すると」
警戒と監視の為の機材設置。
あらためてその仕事を言い渡されたタクミの口からは、そんなぼやきが絶えない。
巨人との接触、その直後の出来事。
そこから基地に戻ってから言い渡された仕事は、前と同じ事。
しかも、規模は以前以上。
より多くのカメラとマイクを設置する。
それ以外にも様々な感知器を持ち込んでいく。
当然、こんな作業が一回で終わるわけがない。
「……何往復させるんだよ」
相手に見つからないよう、車両は使わないというのは変わらない。
おかげで何日も森の中を行ったり来たりする羽目になる。
幸いなのは、基地と機材の設置場所の間に中継地点が作られた事くらい。
食料も運び込まれるので、空腹の心配が無くなったのも大きい。
そのおかげで基地まで戻る必要はなくなってしまったのも事実だが。
おかげで寝泊まりはテントの中。
雨風はしのげるが、快適とは言いがたい。
増員はされたが、やるべき仕事も増えてるので手間は変わらない。
いや、以前より仕事は増えてるかもしれない。
これならいっそ、巨人に攻め込めばいいんじゃないかと思ってしまう。
この場に集められた人数と銃の数なら、居住地にいる巨人を十分に殲滅する事が出来る。
巨人の住処の状況も航空偵察や衛星写真などである程度は把握出来ている。
もちろん、中の様子まで完全に分かるわけではないが、建物の配置くらいは十分把握してる。
多少強硬であろうとも、突入すれば勝つ自信はあった。
もし巨人を倒すのが目的なら、それで十分である。
(何か考えてんのかな)
あえてそうしない理由である。
上層部が何を考えてるのか分からないが、何かしら思惑があるのかもしれない。
それがどんなものかは分からないが、
(ろくでもない事でなけりゃいいけど)
過度に自分たちに負担をかけない事。
それだけを願いながらタクミは、回ってきた仕事をこなしていく。
これがどれだけ意味があるのだろうかと考えながら。
上層部は上層部で多少もめていた。
巨人を倒す事はたやすい。
現場から上がってきた報告でそれは判明した。
しかし、だからといって即座に殲滅という事にはならなかった。
損害を減らすために、もう少し情報を集めようというもの。
ただ倒すだけでは巨人側の情報が得られないから生け捕りにしようというもの。
虐げられてる(巨人に比べて)小さな者達も助けようというもの。
それらの意見がなかなか一致しなかったのだ。
その為、とりあえず情報収集という事でお茶を濁してるという面がある。
全員、巨人は敵だと認識しつつもだ。
なので、最終的には撃退・殲滅が目的にはなっている。
下手に取引や関係を持てば、もっと酷い結果になるのは目に見えている。
そもそも交渉や取引が出来る相手とも思えない。
いきなりこちらの人間を掴みとり、暴行を加えようとしてた連中だ。
まともな話し合いなど期待出来ない。
だから商社である一井物産はこれを排除する事に決めた。
交渉が出来ない相手とは取引は出来ない。
それどころかこちらに危害を加える可能性が高い連中だ。
そんな奴らがいたら安全を脅かされる事になる。
そうなったら商売をやる事も出来ない。
巨人の存在は一井物産とは決して相容れないのだ。
だからこそ基本方針は決まってる。
なのだが、そこに至るやり方でどうしても意見が衝突する。
短期決戦を望む者達は、今すぐにでも突入を求める。
損害を気にする者達は、慎重な行動を求める。
どちらもそれなりに正しく、どちらにも相応の問題がある。
それをどうにか是正しようとして時間を消費していく。
それが最も忌むべき『不決断』に陥る事になる。
それは分かってるのだが、それでも両者は言い争いを続けていった。
どちらにするにせよ、決断をしないからどちらも進まない。
適当に調査機器の設置はしていくが、それだけで終わってしまう。
無駄ではないが、情報を集めて、ではどうするのかという部分がない。
慎重派も情報を集めてから行動を、と言ってる。
だが、その案を採用してないから情報集めだけで終わってしまう。