161回目 巨人調査 9
「────うあ」
倒れた巨人、力が抜けていく手。
そこから抜け出した兵は、大きく息を吐き出し、
「危ねええええええ!」
さすがに大声で叫ぶ事は無い。
聞きつけた巨人が駆けつけてくるかもしれないからだ。
だが、ありったけの感情を込めて声を吐き出していく。
いきなり手で握られたのだ。
気持ちを落ち着けるのも大変だろう。
それでも無事であったのは運が良い。
もう少し他の者達の対応が遅れていたらどうなっていたか。
「大丈夫だな」
「大丈夫じゃねえよ!」
確認してきた者に静かに怒鳴り返す。
しかし、声をかけた方はどうじる事もなく、
「ずらかるぞ」
と解放された兵を促した。
長居するわけにはいかない。
他の巨人に気づかれた可能性がある。
それが無いにしても、いずれはやってくるだろう。
仲間が一人いなくなってるのだから。
「撤退だ」
隊長が促していく。
カメラやマイクを設置してる場合じゃない。
急いでその場から逃げ出す。
まだ見つかるわけにはいかない。
相手が握ってるこちらの情報は少ないほど良い。
既に一人殺しはしたが、それでもまだこちらが何者なのかは分かってないはずだ。
だったら、その状態を出来るだけ長く保った方が有利になる。
事の次第はすぐに伝えられた。
巨人に見つかり、一人がつかまった。
よからぬ結果になりそうだったので、自衛のために攻撃をした。
結果、巨人は死亡。
そういった趣旨の報告があげられる。
これは文章だけでなく、各自が装備していたビデオカメラなどの映像も含まれる。
偵察・調査が目的だったので、全員撮影用のカメラを装備している。
それらによって現地の状況がより正確に把握されていく。
報告書、そして映像。
そのどちらも見た者達は一様に頭をかかえた。
もう少し時間をかけるつもりだった巨人の調査。
それがあっさりと頓挫した事への失望が大きい。
そして、巨人のとってる行動に絶望も抱いた。
捕まえた兵の扱い方。
どう見ても平和的な行動とは思えないそぶり。
それが個人の性格によるものなのか、種族全体の性質なのか。
まだ断定するには早いが、得られた情報から考えるに、とても友好的な付き合いが出来るとは思えなかった。
「まったく」
映像に目を通す立場にある者達は嘆息する。
「今度もお近づきになりたくないような奴らなのか」
第三大陸の機械群と同じく、争いは避けられないかもしれない。
そうなる可能性が非情に高い事に、調査・分析部門も意思決定の重役会も頭を抱えていく。
別に彼らは平和主義者というわけではない。
命や生存権を守るためには相手を倒す必要がある事は熟知している。
この異世界において、敵への攻撃をためらってはいけない事は常識だ。
その事を知らない者はいない。
大半がこの世界で生まれ育った者である。
そうでない者も、この世界で生き残ってきた者達である。
敵を倒さなければ自分が死ぬことを全員が理解している。
なので、敵へのためらいは一切無い。
そんなもの、自分の命を無駄にするだけの愚行だと悟ってる。
その一方で、無駄な争いは出来るだけ避けたいと考えている。
生きるために敵を排除してるのであり、騒動が好きなわけではない。
友好的な存在となら出来るだけ手を取り合っていきたいと考えている。
それが出来ないから、それどころか敵対するから撃退しなくてはならないだけだ。
今回の件で、巨人達も排除した方がよい危険な連中の可能性が高くなった。
そうなればまた戦争になる。
巨人達の規模からして、それほど大きな騒動にはならないにしても。
それでも、それなりの対応はしなくてはならない。