160回目 巨人調査 8
幸福にしろ不幸にしろ重なるものである。
この時のタクミ達は、どうもあまり良くない運勢の中にいたようだ。
接近してきた巨人は、木に登っていた者を見つけてしまう。
巨人の目線の高さとあまり変わらない所にいた不幸だ。
そんな彼を巨人は無造作に掴みあげる。
人が昆虫を掴むように。
そして手にした兵を見つめて、
「小人か」
と鼻で笑う
嘲りの調子が混じってるのは、その場に居た誰もが感じた。
そして巨人は、掴んだ兵を見て意地の悪い笑みを浮かべると、腕を振り上げる。
(まずい……!)
そう思った。
思うまでもなく体が動いた。
兵を握った手を振り上げた巨人に銃を向ける。
幸いにもタクミは、巨人の死角になる位置にいた。
振り上げた腕で視線が遮られる場所だ。
そこからタクミは、銃を構えて引き金を引く。
7ミリ口径の歩兵銃から弾丸が発射される。
一発ではない。
二発三発と。
その銃口は、巨人の肩から肘のあたりに向けられていた。
咄嗟にそこを狙った。
握られてる兵を解放しようと思った。
その為に、相手の腕をどうにかしないと、と考えた。
一瞬だけ浮かんだその思考に体が追従する。
しかし、肘だけ狙うほどの精密さがあるのか?
狙いながらタクミはそうも思った。
通常の人間よりは遙かに太い巨人の腕だが、それでも狙って打ち抜くには細い。
しかも咄嗟に、ろくに狙いもつけない攻撃だ。
一発で当たるとは思わなかった。
だから比較的狙いやすい部分に向かって撃った。
腕の付け根、肩のあたりに。
肩を中心に狙えば、外れても頭や胴体にあたる。
狙ったところでなくても相手に損害を与える可能性が高くなる。
それに、肩を砕くことが出来れば、連動して腕、そして手にも影響が出るだろう。
即座に捕まった者が解放される事はなくても、今より酷い事になる可能性は減る。
それを狙って銃を撃つ。
その銃弾は狙いを外れて巨人の胴体に当たる。
肩より下、脇のあたり。
狙いは外れたが相手に損害を与えはした。
体の構造が人間と同じなら、間違いなく肺を貫いてる。
それに続けて更に撃つ。
今度は反動に沿う形で少し上に。
狙い通りに肩に当たった。
腕が振動する。
更に同じあたりを狙って引き金を引く。
肩を中心に頭、胴体、そして腕に当たった。
ありがたい事に外れ弾はない。
全部が巨人に当たった。
それは他の者達のも同じだ。
仲間が巨人の手に掴まった瞬間、数人が行動を起こしていた。
全員、狙いはそれぞれ微妙に違うが、いずれも兵を解放するために銃を向けていた。
足下から崩そうと、腰を中心に狙い。
頭を飛ばして一気に終わらせようと、背中から首を中心に狙い。
やはり腕を狙おうと胸よりに肩を狙い。
あらゆる所を狙っていった。
それらは狙い通りに腰から腿を破壊した。
背中から首・頭と脊椎を中心に撃ち抜いた。
胸と肩を撃ち抜いた。
巨人の体もそれらを防ぐ事は出来ない。
確かに巨人の肉体は優れていた。
その筋肉は、人間の打撃くらい難なくはじき返す。
剣や斧、槍に弓。
そういったものによる攻撃ならば、鎧を用いずとも遮ってしまう。
それくらい筋肉が硬い。
表皮くらいは破れるだろう。
かすり傷、血がにじむくらいの事は出来るかもしれない。
しかし、致命傷を与えようと思ったら、その程度ではどうにもならない。
地球人の持つ体格、体力だけで勝負するなら、巨人は相手にならない程強力な存在だ。
それは知能を持つモンスターと言える。
そして、モンスターと同等であるからこそ、どうとでもなった。
そこらでよく見る恐竜程度の強さなら、兵士が持つ火力で対処が出来る。
大型のモンスターでも無い限り、そう大きな脅威にはならない。
人力ではどうしようもなくても、火薬の力で飛び出す鉛の弾丸が効くなら問題は無い。
巨人達がタクミ達地球人と同じように火器を持ち出してきたらどうなったか分からない。
だが、巨人達の武器は剣や斧、弓といったものである。
そういったもので武装してるだけなら、タクミ達が負ける事はない。
接近されたらともかく、ある程度距離を置けるなら勝機は高くなる。
今、それが立証された。
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