157回目 巨人調査 6
「────だとよ」
話し終えた隊長の言葉に、誰もがうんざりした表情をした。
偵察機に加えられた敵の攻撃。
その顛末が偵察に赴くタクミ達にも届けられた直後である。
「嘘だろ」
「なんだ、それ」
そんな声が上がってくる。
それもそうだろう。
巨人がどれだけの脅威なのかを伝えてくる内容だったのだから。
そこに向かわねばならないというだけで気が滅入る。
それが必要な情報であるのは分かるし、分かったからより一層の注意も出来る。
少なくとも、相手の戦闘力をある程度ははかる事が出来る。
それは大きな利点だ。
なのだが、それでも相手の凶悪さに目眩がしそうだった。
異世界からやってきた敵は巨大である。
そして尋常ならざる強靱さを持っている。
いくら巨大な弓とはいえ、矢を高度3000メートルまで飛ばすとは。
どれだけの張力があればそんな事が出来るのか?
そんな事をするような奴らのところに赴けというのだ。
無茶を言うなというのがこの場に居る者達の一致した見解だった。
とはいえ仕事である。
文句は言うが従うしかない。
危険は確かだが、危険な事をするのが彼らの仕事である。
相手が強力だからと言って引き下がるわけにはいかない。
そもそも、タクミ達の仕事は脅威を確かめてくる事である。
探索・探検が業務である以上、危険は避けられない。
それを承知でこの仕事を選んだのだし、文句ばかりは言ってられなかった。
何よりも、他より高い給料の為である。
目的地まで歩いていく。
途中、小型のモンスターに遭遇したが、それ以外はこれといって問題は無い。
脱落者もなく目標近くまで進んでいく。
問題はそこからだった。
巨人の近くまできている。
それは相手に感づかれる可能性が出てきたという事でもある。
「……ここからは慎重に」
部隊長からの指示が飛ぶ。
言われるまでもなく、他の者達は気配を消して進んでいく。
出来れば巨人には遭遇したくない。
今はまだ偵察の段階である。
接触は避けねばならない。
相手の情報がない段階で出会っても、良い結果が得られるとは限らない。
交渉になったとしても、思惑が分からなければどうにもならないからだ。
その為、企業としては多少なりとも情報が欲しかった。
接触して会話をしなくても。
普段の生活状況を見るだけでもいい。
どういう行動をとってるのか、何をしてるのか。
態度や振る舞いから気性や性質・性格を読み取りたい。
その為にも接近しての観察が必要だった。
とはいえ、ずっと観察している必要もない。
カメラやマイクを設置して撮影・録音出来ればよい。
それだけでもしておけば、多少は情報を手に入れる事が出来る。
今はそれが必要な段階だった
相手の情報が全くといって良いほど無いのだから。
なのだが、それを手に入れにいく者は大変である。
敵に発見されずに接近し、必要な機材を設置する。
それも敵に見つからないように偽装して。
おまけに敵の姿が見える位置────つまりは、敵から見つかりやすい所でやらねばならない。
設置すればあとは楽ではある。
放っておいてもカメラとマイクが情報を集めてくれるのだから。
だが、そこまで持っていくのが大変だ。
「それになあ……」
荷物を背負って歩きながらタクミがぼやく。
目の前にある道なき道。
そこを何十キロも歩かねばならない。
それが手間で面倒だった。
相手に察知されないよう音の出る乗り物を使うわけにはいかない。
また、そもそもとして道が存在しない。
そんな所を進もうとしたら、嫌でも足に頼る事になる。
これが開戦となれば、こんな慎重さも不要なのだが。
「早く戦争にならねえかな」
物騒ながらそんな事も考えてしまう。
「ぼやくなぼやくな」
タクミの近くにいた者が声をかけてくる。
「厳しくきつい兵隊稼業だ」
「そうそう。
これが俺たちのお仕事だ」
「歩いた分だけ給料になる」
「口と一緒に足も動かそうや」
皆、冗談交じりにそう言っていく。
幾分自嘲気味に。
そんな周りの者達にあわせ、
「へいへい」
タクミも頷く。
やらねばならない事は分かってるのだ。
それでも言わずにはおれないのである。
それは他の者も同じ。
だからタクミをたしなめないし、叱責もしない。
同調して、それでいてタクミを促す。
「……それでもバギーくらいは使いたい」
口にするタクミの言葉に、笑い声をあげながら。