153回目 巨人調査 2
「何のための車だよ」
車輌による最接近地点から下りた者達の文句である。
それも当然だろう。
目的地200キロ手前。
そこからは歩きで目標に近づく事になる。
車輌による恩恵は受けられない。
もとより車輌が入り込めるような地形ではなかったが。
その為、足を使っての移動となる。
「こんな仕事、受けなきゃ良かった」
今更ながらそんな事が口から出てくる。
歩いて移動、それも200キロ。
普通に考えても頭が痛くなる距離だ。
平坦な、舗装をされた道を進んでもかなりの時間がかかる。
一日20キロの進行としても10日はかかる。
それも、荷物などがほとんど無い状態でだ。
もちろんそんな恵まれた状態であるわけもない。
平坦とはほど遠い森林の中。
軽装とは絶対に言えない荷物を背負いながら。
そんな状態での200キロである。
一日に何キロ進めるのかも分からない。
しかもモンスターの襲撃を考えねばならない。
巨人から発見される可能性もある。
注意深く進んでいく必要があった。
また、途中で中継地点も作らねばならない。
物資の搬送のために必要だからだ。
「最悪だ……」
タクミの口からもぼやきが漏れる。
道を切り開きながら進まねばならない。
その手間はとてつもなく大きい。
移動可能な場所を探しながら進まねばならない。
どうしても時間がかかる。
この手の作業はこの大陸に来てから何度もこなしてきた。
なのだが、その時よりも緊張感は大きい。
少なくともモンスターより頭を使う存在が相手なのだ。
これまでのようにはいかない。
機械群も面倒な相手だったとは聞くが、それとは別の面倒さがあるだろう。
それを考えると頭が痛い。
ようは人間並の存在が相手なのだ。
その事が色々と警戒心を催させる。
単調な動きをするだけの機械群とは違う。
何をしてくるか分からない。
また、人間同様に動くならばそれはそれで面倒になる。
様々な駆け引きが発生するだろう。
謀略や計略、戦闘における動きなど。
それらがこれまでと違ってくる。
加えて人間を遙かに超える身体能力である。
そんなのを相手にするのだ。
どうしたって緊張する。
もし相手が動物並に鼻がきくなら。
耳が聞こえるなら。
コウモリやイルカがそうしてるように超音波などを発してるなら。
その他、様々な能力を持ってるなら。
そこに道具を使う智慧と、モンスターを倒す身体能力が加わる。
凶悪極まりない敵だ。
加えて、懸念が更にある。
銃弾が効果あるのかという事だ。
巨人の皮膚や筋肉が銃弾をしのぐほどだったら?
そんな懸念は誰もが持っていた。
恐竜と同等か、あるいは凌ぐほどの身体能力を持ってるのは分かってる。
それを可能としてる肉体ならば、銃弾すらもさほど効果がないのでは、と考えられていた。
鍛え上げられた筋肉は力を入れればかなり硬くなる。
それに銃弾が何処まで効くのかは誰もが心配していた。
もしドラゴンやベヒーモス並ならば、歩兵銃では分が悪い。
最低でも12.7ミリ機関銃、そして歩兵用擲弾筒などが欲しい所だった。
(そんなのが相手だしなあ……)
移動しながら考えていく。
どうやって対処すれば良いのかを。
答えは出てこないが、それでも考える。
少しでも生還率を上げる為に。
現地の探索や巨人の調査なんて、それが出来てからやるものだ。
仕事は命を捨ててまでやるものではない。
命を保ちながらやるものだ。
(先に撃つしかねえか)
とどのつまりそこに行き着く。
やられる前にやるしかない。