15回目 別大陸開発に至る理由 3
事の起こりは数年前である。
異世界の衛星軌道に打ち上げられた観測衛星からの映像。
それが新地道の中枢に激震を走らせた。
別の大陸に存在する大穴。
その周辺に展開する何か。
それを見た者達は、一様にこう思った。
──来るべきものが来た。
人類も大穴というトンネルを通ってこの世界にやって来た。
ならば、同じように別の世界からこの世界にやって来る者達も、いずれあらわれるだろうと誰もが予想した。
地球より巨大なこの異世界にも、やはり大穴が複数存在している。
それらが地球とは違う別の世界につながってるだろう……と誰もが考えた。
だからこそ、その時がきた場合に備えてもいた。
出会った者達との最悪の接触にも備えて。
相手との接触が平和なものならば良い。
しかし、そうでなかったらどうするか。
それを誰もが恐れ、対応を考えた。
他の文明や集団との接触が幸せなものであるとは限らない。
それは地球の歴史が明らかにしている。
上手く協調出来ればいいが、そうなれる可能性がどれだけあるのか。
人類だけがそうしてるのかもしれないが、覇権を巡って争い、血生臭いぶつかりあいをするのが普通かもしれない。
出来れば避けたいところだが、そういう事だって考えられる。
そもそもとして、相手と意思の疎通が出来るのかどうかも分からない。
言語が使えなければ、互いの意志を伝える事も出来ない。
人間ならばたいていはそうであろう。
その言語がそもそもとして地球のものと同一であるとは限らないのだ。
そうした場合にはどうすれば良いのか、というのも問題になる。
また、思考なども人類と同じようなものなのかも分からない。
だいたいにして、相手が人類と同等の生物、同じような姿形をしているのかどうか。
精神構造や思考形態が似たような存在であるのかどうか。
それも分からないのだから。
まだ見ぬ相手に対して、人類はそんな事を考えていた。
ある種の危機感とも言える。
そんな事を考えてる最中の出来事である。
別の世界からの来訪者の発見だ。
いまだにその場合の接触方法すら決まってない状態でである。
新地道の者達は慌てふためいていく。
当然ながらそれらは日本本国へと送信されはした。
対応についてどうするかを問い合わせるために。
だが、政府の回答は待てど暮らせどなかなかやってこない。
ようやく出て来たものも、
『現在協議中、現状を保つように』
といった内容であった。
これについて、新地道側はさして落胆もしなかった。
どうせそうなるだろうとは思っていたのだから。
事なかれ主義というか、何にしても後手後手に回るのが政府である。
あるいは日本人の気質である。
何か事が起これば、なあなあで済まし、根本的な解決を図ろうとしない。
上っ面を取り繕うだけで終わる。
解決に乗り出そうとするものがいれば、それを窘めてるくらいだ。
どうせ今度もそうなるだろうと新地道側は踏んでいた。
それを見越して行動を起こしてもいた。
どうせ何もしないなら、もう当てにはするまい、このまま放っておこうと。
現地の状況を無視して、実効性のない事をいうのは今に始まった事ではない。
モンスター対策の為の武装の時点でそれは明らかである。
だからこそ、政府を無視して対応を開始していった。
また、この件については以後何の連絡もしない、報告もしない、求められても『問題なし』と回答する事となった。
何の頼りにもならないのがはっきりしてるからだ。
何かするにしても、それは現場の事を無視したものになる。
政府の体面や都合だけを押し通したものであり、現地の事など何も考えはしない。
それが分かってるから、新地道側の事は何も伝えない事にした。
下手に情報をあげれば、それをもとに余計な首を突っ込んできて、現場を混乱させるのが目に見えてるからだ。
そんなもの無い方が良いに決まっている。
それに、情報が上がらなくても何ら問題は無い。
日本が求めてるのは新地道から上がってくる資源であり、それ以外については関心を持ってない。
資源が滞りなく届くならば、それで充分であった。
だから新地道側も、それ以外の物を提供する事を控えた。
こうして新地道は、独自に新たな来訪者への対応を開始していく事になる。