149回目 武装部隊のよくあるやりとり 2
「そこんところは本当に頼みます」
立橋タクミが指示を伝えてきた上司にお願いする。
それに合わせて周りの者達も、
「お願いしまーす!」
と頭を下げる。
一応、上司に頭を下げるという程度の礼儀はわきまえていた。
そこに相応の気持ちが込められてるかどうかは甚だ疑わしい。
「嘘くさい事すんな」
上司もそこは分かっている。
「言われんでも査定は良くしておくから。
文句言わないで行ってこい」
「ありがとうございます!」
全員、一斉に頭を下げた。
話の分かる上司というのはありがたい。
「だがな、それを上が受け取るかどうかは分からんからな。
あまり期待するな」
それもまた分かってはいる。
納得したくはないが、会社とはそういうものだ。
それでも、自分達の事を少しは考えてくれてる上司に、それなりの態度はとっていく。
これくらいのゴマすりは、しても構わないとも思っていたので。
実際に上司が査定を上げてるかどうかは分からないにしてもだ。
「今回の仕事は、大穴に居座ってる連中の観察だ。
全員、記録媒体を持っていく事」
「夏休みの宿題みたいっすね」
「そうだな、遠足も兼ねてる。
こんな楽しい催しを主催してくれてる会社に感謝しておけ」
「はーい」
気のない返事が重なる。
誰も何の期待もしてないのは明らかだ。
勤労精神など欠片もない。
ただ、食い扶持を稼ぐ為だけに仕事に従事しようとしている。
会社はそれを提供してくれる場所でしかない。
そこに忠義を尽くす者は一人もいない。
「死なない程度に頑張ってきます」
タクミの言葉がこの場にいる全員の本音だった。
それでも彼等は仕事として与えられた作業をこなしていく。
今回の仕事は巨人達の観察。
可能な限り近くまで出向き、彼等の行動を撮影する。
空からでは分からない部分を記録する事が狙いである。
なお、無理をして接近する必要は無い。
見つかったら元も子もない。
程よく距離をとり、出来る限りの撮影をする事だけが求められていた。
現段階では見つかる事が問題である。
その為、変にやる気を出して相手に近づく事は戒められていた。
この辺りはタクミ達にとって救いではある。
だが、そうであったとしても、最低限の記録はとらねばならない。
そこが難しいところだった。
「けど、近づくってのがなあ」
「だいぶ危ないよな」
なんだかんだで危険はつきものである。
接近すればそれだけ見つかる危険も大きくなる。
まして地上からの監視だ。
地形や草木が邪魔をする。
ある程度接近しないと撮影はおぼつかない。
そうなった場合にどれだけ危険になるか。
「あいつら、かなり危険らしいじゃん」
「死ぬかもしれんぞ」
事前情報として巨人達の事は聞かされている。
彼等の行動、生活、そして世話をしてる小さい者達をどう扱ってるのかも。
これらは映像を交えて説明がなされている。
巨人の凶暴性は偵察に出る誰もが知る事となっていた。
「見つかったらどうするよ」
「どうするもこうするもねえよ」
聞かれたものは、そう言って銃を抱え上げる。
それで何をするのかは言わない。
言えば問題になりかねないからだ。
しかし、何をしようと思ってるのかは伝わる。
迷わず躊躇わずに、撃つ。
それしかない。
でなければ自分が死んでしまう。
さすがに命まで会社に提供するつもりはない。
死ぬか懲戒免職かならば、懲戒免職を選ぶ。
なにより、
「これで問題にするなら、やっちまうしかないさ」
「だよな」
自分達の命を軽んじるような会社ならば、それなりの態度をとるまでである。
「でも、今回はそういう心配はないかもしれん」
「そうだな」
心配はあるにはあるが、それよりも気になる事があった。
「あれだけ投入するんだ。
下手な制限は付けないだろうよ」
そう言って見る先には、いつもならお目にかかれない重装備があった。