137回目 間近で見る敵地
仕事は仕事である。
危険を承知でやってる武装部門。
そこに務める以上、危ないからという理由だけで職務を放棄するわけにはいかない。
とはいえ、それも相応の準備があればこそである。
一井物産もそこは承知してるので、偵察には相応の用意をしてくれた。
必要になる人員、軽装甲車はもちろんのこと、軍で採用されてる装甲輸送車も用意してきた。
さすがに一般車両やバギーだけでどうにかなると思ってはいない。
タクヤ達以外の部隊も動員し、総勢50人になろうかという大所帯で敵地に向かう。
それを見てタクヤ達は少しだけ安心をする事が出来た。
「とは言ってもなあ……」
機動力確保の為に愛用のバギーを運転しながら愚痴る。
これまでにない程の大人数での行動ではある。
企業の武装部隊としては破格の人数だ。
だが、今回の戦争の規模からすると、どうしても小規模に思えてしまう。
何万という規模で展開してる軍勢の中では、50人という人数はあまりにも小さい。
相対する敵の規模に比べれば、それこそ塵芥の如しである。
これで本当に上手くいくのかという不安はあった。
しかし、必要以上に大きな部隊を出すわけにもいかない。
現状では展開も不十分で布陣もままならない部隊もある。
それくらい全てが急いで行われていた。
そんな中で動ける部隊を捻出するのはかなり難しい。
一井物産としてもタクヤ達をどうにかこうにか見繕って送り出したくらいだ。
これ以上の規模にする事は不可能と言ってよい。
そもそも軍の仕事であるはずの危険な地域の偵察。
これを任されたのもそこに理由がある。
戦力の中心である軍の部隊は動かす事が難しかった。
一番の大所帯であるのは確かだが、その規模の大きさ故に細かな所まで見通せないという問題がある。
偵察に出す部隊を用意しようにも、それが出来る部隊がどこにいるのか把握仕切れてない。
それ程までに部隊の運用に無理をさせている。
かといって、混乱してるというわけでもない。
部隊毎の行動は決定されており、その通りに動いてるのも確かだ。
だが、それも効率良く動くために最適化されすぎたゆえの問題が出てきた。
最前線への部隊展開を行う為に特化された行動が決定されている。
その為に、それらを下手に崩す事が出来なくなっているのだ。
偵察部隊も出す予定ではあったのだが、それらも行動予定はもうちょっとだけ後になる。
そこを早めるわけにはいかなかった。
下手に予定を崩せば、他にも大きく響いてしまう。
かといって余裕のある部隊はないかと探すのも難しい。
細かく見ていけば、いくつかの部隊に余裕があるのは見つける事が出来たかもしれない。
小隊、あるいは分隊という細かな単位で遊んでる所もあったかもしれない。
そういった部隊を拾っていけば、偵察に出す事も出来たかもしれない。
しかし、それを探してる余裕もない。
何万という中からそれらを見つけるのも手間がかかる。
それならば偵察を外注してしまおうという事になった。
投入されたタクヤ達は気が気ではない。
今回は敵の本拠地そのものを拝みにいくのだ。
危険は今まで以上である。
敵に見つかる可能性は高いし、そうなった場合に出て来る数も相当なものだろう。
そうなった場合に逃げられるかどうか。
そこが心配だった。
今までの遭遇戦と違い、今度は敵の拠点が目標だ。
そこから雲霞の如く敵が出て来る可能性はある。
そうなった場合にしのぎきれるかどうか。
(あんまり近づきたくないけど……)
仕事の性質上そうもいかない。
見つからないよう近づき、すぐさま退散したかった。