136回目 時間の猶予があるうちに 2
幸いにも敵の攻勢はなりを潜めた。
空爆による工場破壊が勢いを増したおかげで回復が追いつかないようだった。
その間に最前線までの道の整備が進む。
生産力の増強も課題だが、出来上がった物を運ぶ道がまだ足りない。
そこを舗装し、鉄道を延長して輸送効率を上げねばならなかった。
また、最前線から敵地に至る道の整備も進む。
防戦一方というわけにはいかない。
新たな脅威が発生した今、少しでも既存の敵を早く倒さねばならない。
その為にも侵攻可能な道が必要だった。
敵が停滞してるうちにこれらは作り上げねばならなかった。
機械群の行動は、その間小規模な偵察に留まった。
攻勢に比べれば小さな集団が時折やってくる。
それでも数十体は最低でもやってくる。
それらが接近してきたら撃退せねばならなかった。
工事してるあたりに接近してきたら目も当てられない。
被害が出ないように警戒する必要はあった。
だが、そういった事を除けば平和ではあった。
モンスターも含めて時折襲いかかってくるものはいる。
しかし、撃退に苦慮するほどではない。
何時やってくるのか分からないから見つける手間はあるが。
それでも攻勢に比べればと誰もが思っていた。
こういった小規模な襲撃には、タクヤ達のような小規模な部隊があたる事が多かった。
周辺を警戒してる時の遭遇戦だとか、見つけた敵の迎撃などにはこの規模で充分だったからである。
十数人の武装した兵士ならば、この規模の敵に充分に対処出来る。
それが分かってるからこそ、小規模な部隊をあてている。
もっとも、実際に対応する者達からすればたまったものではない。
数十体を相手にするのに十数人ではさすがに怖い。
よほど下手をうたない限りは大丈夫と分かっていてもだ。
何かの拍子に失敗するかもしれないと思うと気が気ではなかった。
戦闘任務ならばこういった危険はつきものとはいえ、もう少しやり方を改善してもらいたかった。
「……そんでもってこれだ」
受難はまだまだ続く。
周辺の警戒や迫ってきた敵の迎撃だけでは終わらない。
更なる任務がタクヤ達に課せられる。
「偵察だって」
「どこにです?」
「敵のいる所だ」
当たり前の事だ。
敵がいるから偵察するのだ。
問題は、それがどこなのかである。
「それって、どこなんですか?」
「だから、敵地だよ」
ため息を盛大に吐く。
そうしてからタクヤは更に言葉を続けた。
「敵の本拠地。
その様子を撮影してこいだって」
話を聞いた班員達は全員蒼白になっていった。
そして、
「嘘だろ」
「マジかよ」
「ざけんな」
愚痴と怒りを零していった。
これが必要なのだろうとは誰もが分かってはいた。
現地の様子を事前に確かめておく事が出来れば、注意するべき事も分かってくる。
なので偵察は欠かせない。
実際、タクヤ達だって作戦行動に入る前に事前情報があればと何度も思ってきた。
ただそれは、自分達ではない他の誰かに行ってもらえるならばだ。
自分達がその役目を負うというのは出来れば避けたいものだった。
様子の分かってない場所に出向くのは危険なものだ。
何があるか分からないというのはそれだけ大変なものになる。
必要な作業だとしても、好んでやりたい類のものではない。
出来れば他の誰かにやってもらいたいと思っている。
むしのよい話だが、実際そんなものである。
とはいえ全く事前情報が無いわけではない。
衛星からの観測に、航空偵察などによりある程度の事は分かっている。
それでもタクヤ達が送り込まれるのは、人間視点での情報が欲しいからだ。
どれ程精緻でも、空からの観測と地上からの視点ではどうしても差異が出る。
その差異を無くすためにも、地上からの偵察が必要だった。
それは分かっている。
「けどなあ」
「どうして敵地なんだよ」
「これ、帰ってこれるんですか?」
「分からねえよ」
愚痴と不満が渦巻いていく。
今回の偵察目標は敵地。
機械群の拠点である。
その勢力範囲を目で見てくる。
カメラにとらえていく。
それが目的だった。
「言って戻って来て、往復1000キロですぜ」
「モンスターとかガラクタが出てこなくても、この距離は……」
「しかも、舗装してない地べただし」
「せめて歩兵輸送車でもないと」
「分かってるよ」
言いたい事はタクヤにも分かる。
しかしそれでもどうしようもない事もある。
「掛け合って必要なものは出してもらえるよう言ってみる。
けど、期待はするな」
やれる事とやれない事はある。
それは分かってるが、タクヤのこの言葉に部下は全員ため息を漏らした。
無謀で危険としか言えない作業である。
なのだがこれも、時間のあるうちにやっておきたい事だった。
それが出来るのは、まだ敵が完全に回復してない今しかない。
そして、その間に敵地の前方500キロまで展開した今しかない。
三回目の攻勢から三ヶ月。
彼等はそこまで進んでいた。