133回目 攻勢三回目 4
「そろそろ決まりそうかねえ」
迫る敵に軽迫撃砲で砲撃を加えながら呟く。
返事を期待してのものではない。
黙ってると気がもたないので声にしただけだ。
そんなタクヤの独り言であるが、聞いた周りの連中ものってくる。
「だといいんですけどね。
でも、少し勢いが落ちた気はします」
「実際どうなのかわからないけど」
「偵察の報告とかはないのか?」
「こっちにまでわざわざ伝えてくるかよ」
「共有回線の情報にも無いのか?」
「今のところめぼしいのは。
相変わらずあっち行け、こっち行けってだけです」
「まったく……」
話を聞いてため息を吐く。
ついでに迫撃砲に砲弾を入れてもう一発ぶっぱなす。
音を立てて飛んでいく砲弾が、敵の中に吸いこまれ、爆発した。
その周囲にいる二体か三体を巻き込んでいった。
「……もうちょっと状況くらい流してもらいたいよなあ」
「まったくです」
同調する声があがる。
戦況がどうなってるのかは気になるところだった。
上手くやっているのか、かなりまずいのか。
それが分からないのは不安で仕方が無い。
やるべき事が変わる事がないにしても。
優勢でも劣勢でも、目の前の敵を撃退せねばならない。
でなければ生きて帰る事は出来ない。
「どうなってるんですかねえ」
機関銃の発射音をBGMにそんな呟きが聞こえてくる。
「さあなあ」
答える声は曖昧なものだ。
どうなってるのか分からないから答えようがない。
「どっちでもいいけどな、勝っても負けても」
「いやいや、それを言っちゃまずくないですか?」
「まずいはまずいな」
それでもタクヤは平然と言う。
「俺達が生きて帰れるなら、どっちでもいいよ」
それもそうだなと聞いてる誰もが思った。
幸いな事に状況は比較的優勢ではあった。
後退を続けつつもタクヤ達に損害はない。
押し寄せる敵は目前まで迫ってくるが、それに巻き込まれた者はいない。
ほぼ全てが攻撃によって破壊されていく。
危険かどうかで言えば、比較的安全ではあるのだろう。
だが、数百メートル先で倒していた敵が、200メートル、100メートルと間近まで迫って来るのには恐怖をおぼえる。
それでもギリギリの所で敵を退け、危なくなれば後退もする。
損失らしい損失も出さず、戦闘は継続されていた。
終わりが見えてきたのは、戦闘開始から数日ほど経過した頃。
予想以上に後退を強いられはしたが、辛くも人類は敵の撃退を果たす事が出来た。
しかし、これ以上の戦闘は困難な程に消耗もさせられた。
弾薬や燃料は言うに及ばず。
疲労で兵士達の体も満足に動かなくなっていた。
敵の姿が見えなくなり、戦闘の終了が宣言されたとき、多くの者達がその場にへたりこんでしまった。
もしここで敵が少しでも戦力を出す事が出来ていたら、人類に大きな損害が出ていただろう。
誰もが身じろぎすら出来ないほど疲れ果てていた。
幸い、敵も繰り出せる兵力を全て出し切ったあとだった。
衛星や航空偵察で見える範囲に敵はいない。
捕らえる事が出来ない場所に潜んでるものもいるかもしれないが、大きな脅威になりそうなものはない。
戦闘にあたった者達が行動不能になっても、即座に問題になるという事はなかった。
警戒の為に予備兵力を展開はするが、それで暫くは凌ぐ事が出来た。
だとしても寝込んだ者達をそのまま放置する訳にもいかない。
動く事もままならない者達をどうにか連れて後方まで連れて行く必要があった。
少なくとも寝床に放り込む必要はある。
なのだが、宿泊施設があるわけでもない。
全員、雨がしのげる天幕や車輌の中に寝転がるのがせいぜいである。
それでもそこらに放置するわけにはいかない。
機械群はやってこなくても、モンスターが出て来る可能性があるのだから。
それらをしのぐ体制が出来てる場所に放り込む必要があった。
タクヤ達も例外ではなく、狭い車内で寝転んでいた。
交代で見張りを立て、窮屈な姿勢で目を閉じる。
寝心地は最悪で寝起きも良いものではない。
だが、ろくに睡眠もとれず、休息すらままならなかった戦闘中よりはマシだった。
体を休める事が出来るというだけでありがたい。
起きればまた何かやらされるのは分かっていても、とりあえず休みが必要だった。




