131回目 攻勢三回目 2
「まいったな」
「ああ」
「あれだけ多いと、一気に壊滅させる事は無理だ」
「むしろこちらが包囲される形になるか」
「分かってはいても対処が出来んな」
戦争は数である。
相手の攻撃力を上回る数を繰り出せるならば、最終的に勝つ事は出来るだろう。
おびただしい損害を出しながらも。
だが、そんな戦い方を繰り返す事は出来ない。
両者の間に多大な差が存在しない限りは。
だから地球上ではこうした戦いはそうそう起こりはしない。
投入できる戦力にどうしても限りが発生するからだ。
それを異世界にあらわれた敵はやっている。
膨大な生産力によって生み出される兵士。
それらを戦術も戦略もなく敵に向かって一直線に進ませるだけ。
そこに戦い方などあったものではない。
ただただ数にまかせて蹂躙する。
それだけの単純なやり方だった。
だからこそ人類は後退せざるえなかった。
人類ならばこんな手段はとれないだろう。
死ぬと分かっていて前進させられる兵士はたまったものではないからだ。
まず確実に脱走が発生する。
そして戦闘が発生すれば逃亡するものが続出する。
生き残る可能性があるならともかく、死ぬのが確実な戦いなど誰も望みはしない。
勝つためとはいえ、その為に死ねと言われて素直に頷く者はそうはいない。
生き残る可能性が確実にあること。
それも一定以上の高い確率であること。
これが無ければ危険な戦場に好んで出向くような者はいない。
そもそも、こんな事が出来るだけの兵力を集める事も難しい。
消耗を前提としてる以上、敵よりも確実に多くの兵力が必要になる。
それも絶大な差が求められる。
それが出来るほどの人口を持ち合わせてる国家などまず存在しない。
それこそ、とんでもない大国と拭けば飛ぶような小国の争いでも無ければ難しいだろう。
それを異世界の敵はやってのけている。
絶大な生産力。
それによって生み出される兵士。
それが脇目もふらずに戦場に向かい、死ぬ事を考えずに突撃してくる。
これほど恐ろしい事は無い。
人間なら恐怖で動きが鈍る事もあるだろう。
だが、敵にはそれが一切存在しない。
少なくとも動きに乱れは無い。
ただひたすらに突進を繰り返す。
それがとにかく脅威だった。
「倒しきれなかったのが横に回ってる」
「これをどうにかしないと」
「でも、出来るだけ多く敵を倒すしかないんだよな」
それ以外に有効な対処方はない。
広がる事が出来ないくらいに敵を減らす。
対処はそれしかなかった。
「合流して数を増やすしかないな」
最前線から第二次防衛線への撤退。
程なくそれも次の防衛線への後退に入っていく。
ある程度の迎撃はするが、敵を押しとどめる事はこの段階では放棄された。
横に広がる敵をとらえきる事が出来ないからだ。
下手をすれば側面を覆われて壊滅しかねない。
そうなる前に撤退をして、後方の部隊と合流する事が優先された。
数には数で対抗するしかない。
予定より早まった後退は、当初の予定を大きく書き換えていく。
しかし合流の度に戦力が増強されるので、敵の撃退も容易になっていく。
敵の数は変わらないが、一度に投入できる火力が違う。
撃ち漏らしが減り、側面に回る敵が無くなっていく。
第四次防衛線まで後退したところで、ようやく敵を凌ぐ事が出来るようになった。
「とはいえ、このままというわけにもいかんな」
「下がる事が出来る余裕は欲しいですね」
「そちらの方はどうなってる?」
「今、どこまで下がるか、どうやって下がるかを策定してるところです」
下がる為の予備陣地は用意してある。
敵の数は前回より多くなるだろうから、後退する場所も多目にとってはいた。
しかし、攻勢の激しさは予想を上回り、予備陣地だけでは足りなくなるかもしれない。
それを考えて、更に後退する場合の拠点なども考える事となった。
「それに、弾薬が足りなくなるかもしれん。
そちらの方はどうなってる?」
「一応、増産はしてますがここまで持ってくるのに手間取ってますね。
後方の倉庫には山積みかもしれませんが」
生産出来ても輸送出来なければ意味がない。
そして輸送能力はまだまだ必要な分には足りない状態だった。
「なるべく多く回してもらうようにしてくれ。
弾薬が無いでは何も出来ん」
「なるべく急がせます」
最前線で指揮を執る司令部では、そんな事が話されていた。