125回目 下々からしてみれば 4
「やる事ないんだろうけどな。
だからって休みの度に俺を引きずり回すな」
「何言ってんの。
休みの度じゃないよ。
だいたい、兄ちゃんと休みがあう日なんてそんなにないんだから」
「その時に常に俺を引きずり出してんのはどこの誰だ」
「もてないお兄ちゃんの、可愛い幼なじみです」
「かわいいっていうなら、態度にもかわいげを出せ」
「ちゃんと出してるよ。
こうやって独り身の寂しい独身男性に親身に寄り添って上げてるし」
「強制連行のどこに親身な部分があるんだ?」
「貴重な休日を潰して付き合ってあげてるところかな。
それに、やる事無いってわけでもないんだし」
「だったら俺なんぞにかまってないで、やる事をやってこい」
もっともな事を言ってタクヤはアマネを黙らせようとした。
無駄だと思いつつも。
「だいたい、なんでわざわざ俺を引っ張り出すんだよ」
「まー、あれかな、生存確認ってやつ」
「わざわざしなくていいから」
「そうはいかないよ。
おばさんに頼まれてるし」
「なに?」
いきなりの母親登場で驚く。
「兄ちゃん、全然連絡とかしてないでしょ。
だから私が『生きてますよー』って報告してあげてるの」
「余計なことを……」
アマネに頼む母も、母に応えるアマネもだ。
わざわざする必要もない事をするなと言いたい。
だがアマネは意に介さず、
「たまには連絡してあげなよ。
電話とか通じにくいけどさ」
などとたしなめていく。
ごもっともな話であるが、タクヤにはどうでも良いことだった。
親を蔑ろにしてるつもりはない。
そうしたいとも思わない。
しかし、面倒でどうしようもないのだ。
電話回線はいまだに施設が充分ではなく、第一大陸との通話は困難である。
個人での利用だと通話時間が制限されたりする。
パソコン通信なども同様だ。
第三大陸内であればもう少し融通が利くが、それもまだ限度がある。
当然ながら通信料金も高い。
昔ながらの手紙などの郵便も似たようなものだ。
少しでも積み荷を減らすべく、こういったものの取り扱いは小さなものに留まっている。
こんな状況なので、わざわざ連絡をとろうとも思わない。
もっとも、これらが完全な状態になってもタクヤが連絡をとる事はないだろう。
一番の理由が『面倒だから』なのだから。
「そういうのはどうかと思うよ」
「俺もそう思う」
自分の態度や行動が、どうしようもなくズボラなものだという自覚はある。
「けど、わざわざやろうとは思わん」
「反抗期なのかなー?」
「そんなもんとっくに終わってる」
「そうかな。
今も続いてるような気がするけど」
「馬鹿言ってんな」
「だったら連絡くらいしてあげなよ」
「金がもったいないし、時間を使うのが面倒だ」
「……そういうのが反抗期っていうんじゃないかな」
「単なる親離れだ」
タクヤとしてはそのつもりである。
独り立ちしたのだから、一々絡む必要もないと考えている。
「それでも連絡くらいは入れてあげなよ」
アマネはため息を吐いた。
「本当に危ない事になるかもしれないんだから」
アマネの言いたい事はそこだった。
戦闘部隊で仕事をしてるなら、いつ死んでもおかしくはない。
だからこそ生きてる間に連絡くらいはいれろと言っているのだ。
「今も大変なんでしょ?」
「まあな」
死ぬような事はないが、大変であるのは確かだ。
過労死する程では無いが、野外で過ごす日々が多いので健康への負担は大きい。
「だったら、元気なうちに一言くらい声をかけてあげないと」
「だから、それが面倒なんだよ」
生きてる間にというのは分かるが、それにかける時間が面倒という
そこまでやる必要があるのかと思ってしまう。
「そのうちな」
適当な事をいって返答を濁す。
この場を切り抜ける為だけの言葉である。




