120回目 第二回大攻勢 7
敵の攻勢は前進する毎に勢いを失っていく。
後退し、次の陣地と合流する事で人類側が火力を増すからだ。
敵は展開する部隊に近づく事すら出来ずに撃破されていく。
この時点で敵はかなりの損害を出しており、防衛線の突破など不可能となっている。
人類側も無理して最終防衛線まで引きずりこまなくても良いくらいだった。
だが、安全をとって最終防衛線まで敵を引きずり出す事になった。
その手前で敵を食い止めるとなると、弾薬や食料などを後方から持っていかねばならないからだ。
もともと最終防衛戦で敵を最終的に撃破する予定だったのだ。
それに合わせて弾薬や燃料などの物資が各防衛戦に配置されている。
それらをわざわざ動かすのも手間だった。
下手すると最前線の手前で撃破する事の方が難しくなる。
よほど敵が少なくなってるならともかく。
残念ながらさすがにそれ程までに敵は減退していない。
最初の段階よりかなり数を減らしてるとはいえ、それでもまだ進軍を始めた時の三割は残ってる。
それを迎え撃てるほど各防衛線の物資は多くはなかった。
つまり、無理をしなければ確実に勝てるという事である。
変に色気を出して馬鹿な事をしなければ勝てる。
予想外の問題が起こらない限りはどうとでもなる。
最前線手前の段階で敵は更に数を減らした。
残りは最終防衛線で充分に撃破可能だった。
その最終防衛戦における戦闘は、これまで以上のものとなった。
これまでの陣地と違い、長距離砲まで加わってるのだ。
迫撃砲以上の射程を持ち、爆発の効果範囲も迫撃砲を超えるそれらが火を噴いていく。
これらが前段階で敵の数を更に減らす。
それから射程がもう少し短い迫撃砲が迎撃を開始する。
ここでも敵は数を減らす。
更にそこから戦車砲がお出迎えをしていく。
それを逃れても装甲車の35ミリや20ミリ機関砲が出て来る。
この時点で敵のほとんどは撃破されている。
運良くそれを逃れても、車載されてる12.7ミリ機関銃がとらえていく。
機械群がそこを突破する事は不可能と言って良かった。
こうなってくると、一般兵の役目がほとんどない。
彼等の手にする歩兵銃の射程にまで敵が入ってこないからだ。
時たま、本当に偶然に難を逃れた敵がやってくる事もある。
だが、それもそこかしこから撃ち込まれる銃弾に倒れていく。
過剰なほど撃ち込まれる歩兵銃の弾丸が勿体ないほどだ。
「こりゃ、俺達の出番はねえな」
響き渡る砲声銃声にかき消されるのは承知でぼやく。
タクヤは他の者達に攻撃を控えるよう指示を出していく。
下手に撃つと弾薬を無駄に消費する事になる。
それは避けたいところだった。
使う必要がないなら残して次に活かした方が良い。
そう考え、攻撃を担当する者を限定し、その他は待機するように命じていく。
本当に何もさせないわけではない。
12.7ミリ機関銃への弾薬補給、必要な物資の運搬など。
手が空いてるからこそ出来る事をしていく。
その許可を取って、空いてる者達を動かしていく。
戦闘そのものでは人手が少し余ってるが、他では人が必要なところもそれなりにある。
そこに余り気味な人手を割り振った。
もちろん、機関銃射撃の交代要員や今後を考えての休憩に回すという配慮も怠らない。
前回よりは楽に終わるだろうが、それでも長丁場になる。
その備えも必要だった。
だが、そうした配慮が出来るだけありがたかった。
前回はそんな余裕がほとんど無かったのだから。
敵による二回目の攻勢はこうして終焉を迎えていった。
集められた火力は敵を撃退するのに充分であり、最終防衛線は危うげ無く持ちこたえた。
この戦闘の間にも続けられた爆撃による敵地攻撃の成果も大きい。
おかげで敵の増援はか細くなり、侵攻は尻切れトンボになっていく。
全く無くなったわけではないが、進撃を支える事が出来る程では無い。
それには遠く及ばないほどの生産状況であった。
数を頼んだ攻勢なのに、肝心の数が揃わないのだ。
そんなもの崩壊するに決まっている。
侵攻してくる敵が数えるほどになった時。
まだまだ後方から敵は続けて姿を現してはいたが、決して退けられないほどの数ではない。
こうなった時点でこの戦闘は決着がついたと言える。
人類側の勝利と言って良い形で。




